第40話 騎士団長、撃破!


「試験は合格と言っておこう」


 ギルドから離れ、ここはアスガルド家の屋敷。

 全身包帯のベルフェムトは自室のベッドで仰向けになりながら言った。

 彼の大柄な身体が更に一回り大きくなり、季節外れの雪だるまが誕生していた。


「本当にすみませんでした」


「倒された相手に謝られる始末、ワシも落ちたものだ」


「マキナさんが謝る必要はありません、全部ベルが悪いのです!」


 ふんっ、とそっぽを向くリサーナ。


「お、お嬢様……」


「私は恥ずかしくてたまりません、それでもアスガルド家騎士団団長ですか!」


「申し訳ございません!」


「それは『虹の蝶』の皆さんに言う言葉でしょう!」


「ぐ、ぐぐ、大変申し訳なかった! ワシは君達を見くびっていた!」


 続けてリサーナもマキナ達に謝罪した。


「本当に申し訳ありませんでした。家来の無礼をお許しください。決して性根が歪んでいるわけでは無いんです」


 貴族の当主、という住む世界がまるで違う人物に頭を下げられ、マキナ達は思わずたじろぐ。


「そんな、いいんですよ……!」

 

「マー兄も私達も気にしてないよ!」


「そういう訳には参りません」


「当主であるリサーナ様のお辞儀は我々には身に余るのです、顔をお上げください」


 ベローネは冷静に言った。


「……『虹の蝶』の皆様は優しいのですね」


「選りすぐりの御人好し4人が参上致しました」


「まぁ!」


 リサーナは手を口元に寄せて頬を緩めた。


 よくもまぁそんな台詞が言えるな。

 素のベローネを知ってしまったマキナにとって、この冷静沈着な彼女の言動が逆に新鮮に感じてしまう。


「確かにアタシらは何も問題ないわ、だって結局マキナが返り討ちにした訳だし」


「うぐ!」


「なんなら一撃で倒されてたし」


「うぐぐ!?」


「むしろ丁度いい罰になったんじゃない? 自業自得ね」


「うごがばぁ!?!?」


 ステラの発言が見えない矢となって、ベルフェムトの胸にグサリと刺さっていく。


「ちょっとステラちゃん、駄目だよ!」


「本当のこと言っただけよ」


「ぐ、ぐううう……!!」


 現在負っている怪我とは別の痛みを伴い、ベルフェムトは悶える。


「これも所詮、過去の栄光に過ぎないわけか……」


 ベルフェムトは目線を上に向ける。

 その先には、大きな額縁に入った1枚の写真が壁に架けられていた。

 金色の立髪を持つ巨大な猿のモンスターが吊り上げられ、その横で誇らしげに腕を組んだ若き日のベルフェムトの姿があった。


「素晴らしいグラルコンガです、オオグラルコンガの写真もあるんですか?」


「……何を言ってるんだ? これがオオグラルコンガだ」


「え? あれ、おかしいな」


「どうしたのマー兄?」


「どうみてもオオグラルコンガじゃないの?」


「いや、俺が討伐したグラルコンガの群れの見た目と同じなんだ。全部この姿をしていたぞ」


「「「へ?」」」


「その時のことはよく覚えてる、武器の性能テストで深淵山に行った時に中腹で巣食っていたんだ、10〜20匹は倒したな」


 その場にいた全員がポカンとした。


「皆どうした?」


「マキナ、通常のグラルコンガは我々よりも小柄で金色の個体はいない。君が討伐したのは恐らく……」


「オオグラルコンガの群れだね……」


 アリアは戦慄しながら言った。


「そうなのか? たくさん出てきたからグラルコンガだと思ってたんだけど」


 当のマキナはイマイチ実感が湧いていなかった。


「誰かあの額縁を外してくれ……なんか恥ずかしくなってきたわワシ」


 ベルフェムトはぐったりと天井を見上げた。

 そんな彼を横目に、リサーナは説明を始める。


「何はともあれ、『虹の蝶』の皆様は晴れて鉱山エリアを含む全てのエリアを探索可能となりました、おめでとうございます!」


「ありがとうございます」


 マキナは腕だけで小さくガッツポーズをする。


「よかったねマー兄! 念願の鉱山エリアだよ!」


「アンタの目的考えると行けなかったら不味いもんね」


「底無しに落ち込む自信はあった」


「皆様、もしかして最初から鉱山エリアを希望していたのですか??」


「はい、そこで採れる鉱石素材が欲しかったんです」


「彼、マキナは鍛冶スキルによる武器製作に長けているのです。先程ベルフェムト氏の鎧を砕いた武器も、我々の武器も全て彼が作りました」


 アリア、ステラ、ベローネは自身の武器を見せる。


「ええ!? これを全てマキナさんが!?」


「これだけじゃなくてもっと沢山あるんだよ!」


「製作も修復もお手の物よね、この前迷いの森で物凄い数の壊れた武器直してたし」


「そうなのか!? ならばワシの王牙おうがの鎧も!?」


「ええ、直せます」


 そして、騎士団員の手でバラバラになった王牙おうがの鎧が運びこまれる。


 マキナは1番鎧の原形が残っている部位に手をかざした。


「鍛冶スキル【修復】」


 すると、手をかざした部位に破片が集まり、元の王牙おうがの鎧の姿に戻った。


「お、おお、ワシの王牙おうがの鎧が元通りに……! 恩に着るぞマキナ君!」


「たった数秒で修復を……これがマキナさんの鍛冶スキル」


 実際に目にしたリサーナは目を丸くした。


「……どうやら私はマキナさんのファンになってしまったようです!」


 リサーナはくるりとマキナに顔を向ける。

 あまりに屈託のない笑顔で言われたので、マキナは少し照れ臭くなった。


「光栄です」


「固くなる必要はありませんよ。私はアスガルド家当主である前に1人の女の子なのですから、友達の様に接していただいて構いません!」


「え、いいの!?」


 真っ先にアリアが食い付いた。


「はい! それに私、同い年くらいの友達がずっと欲しかったんです!」


「わぁい! よろしくねリサーナちゃん!」


 アリアとリサーナは手を合わせる。


「ようございましたなぁお嬢様、このベルフェムトも嬉しく思いますぞ……!」


 顔も包帯で覆われているため表情は分からないが、目元が濡れていたため恐らく号泣していた。


「それでは忘れないうちにこれを渡しておきますね♪」


 リサーナは金色の鍵を取り出し、マキナに手渡す。


「……これは?」


「アスガルド家が経営している宿屋の鍵です。『虹の蝶』の皆さんにはスイートルームを用意致しましたので滞在中はそちらをお使い下さい!」


「スイートルームって、一部の高級な宿屋にしかない部屋のランクじゃない……!」  


 ステラがぎょっとする。


「本当にいいんですか、俺達が使っても?」


「ええ、元々そのつもりだったのですから!」


 リサーナはえへんと胸を張った。


「あと皆様に1つだけ、鉱山エリアに向かう際はその前日にこの屋敷に来てもらえないでしょうか?」


「出発する前の日ってことですか?」


「はい、少し説明しなければならないことがあるんです」


「?」


 リサーナがほんの一瞬だけ、哀しげな顔を浮かべた気がした。


「分かりました、その時はまた俺達4人で伺います」


「ありがとうございます、それでは楽園竜アイランド・ドラゴンでの冒険をお楽しみ下さい!」


 こうしてマキナ達は、無事に探索エリア全てを回ることが可能になったのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る