第39話 到着、そして試験!?


 マキナ達の乗ったワイバーンは、石材で舗装され、周りを樹々で囲まれた広い空間に着陸する。

 目の前には、大きな木造りの建物がその強い存在感を放つ。


 4人はワイバーンから降りると、身体を伸ばす。


「ついに来たのか、楽園竜アイランド・ドラゴンに……!」


「楽しかった〜! 乗せてくれてありがとね!」


 グモ〜ン!


 アリアはワイバーンを撫でると、鳴き声で返してくれた。 

 ベローネは辺りを優雅に舞う蝶に手をかざすと、その指先に蝶がぴたりと止まる。


「噂には聞いていたが、のどかで良い所だな」


 口元に寄せ、目を瞑った。


「何だ、案外早く着いたわね」


「どうしたんだステラ、何か物足りなさそうだが?」


「何でもないわよ!!」


「?」


 ベローネの問いかけにステラははぐらかす。

 周りでは同じように冒険者を乗せたワイバーンが降りて来たり、飛び立ったりしているのを見ると、恐らくここは港の役割を持つのだろう。


「ようこそ、楽園竜アイランド・ドラゴンへ!」


 すると、甲冑姿の男性達がマキナ達を出迎えてくれた。


「早速で申し訳ないのですが、招待状の確認宜しいでしょうか?」


 マキナは招待状を取り出し、男性に渡した。 


「……『虹の蝶』の皆様ですね! 本日は招待に快く応じて頂きありがとうございます、我々楽園竜アイランド・ドラゴンは貴方方を歓迎致します!!」


 甲冑の男達は胸に手を当て、一礼をした。


「それではギルドにご案内致します、こちらへどうぞ!」


 マキナ達はぴったり後をついて行き、木造りの建物を抜ける。


「――わあ!!!!」


 真っ先にアリアが声を挙げる。

 それもその筈、目の前には様々な露店がひしめく街が広がっていたのだ。 


 普段、マキナ達の街では見ないような民族衣服や果物も売られていた。

 人間だけでなく、獣人、竜人といった様々な亜人種が道を行き交う。


「本当に竜の上なのか……?」


「想像を遥かに超えたわ……」


 マキナとステラは呆然とする。


「この大通りを真っ直ぐ進んだ先にギルドがあります、あの建物です!」


 甲冑の男は指で前方を指す。

 そこには周囲の景観に合わせた、赤い屋根の大きな木造の建物があった。


「うわ〜凄くおっきい!!」


「私達『虹の蝶』のギルドと同じかそれ以上とみた」


 4人は興奮冷めやらぬ様子のまま大通りを抜け、ギルドに辿り着いた。


 広い会場の中では様々な剣士、魔導士といった冒険者達が各々のパーティーで固まっていた。

 皆、何らかの形で楽園竜アイランド・ドラゴンの上陸許可が降りた者達だ。


「本日到着された冒険者の方々です。『虹の蝶』の皆様で最後となります。代表の方はこちらの番号札をどうぞ」


 マキナは72と記された番号札を受け取る。

 『虹の蝶』が集まりに加わるのを確認した甲冑姿の男性は、指で合図をした。


 すると、奥から2人の人影が現れた。


 1人は雪の精のような巫女服を纏う銀髪の少女。

 あどけなさが残る顔立ちではあるが、その表情には気品の良さを感じさせた。


 もう1人は顔に大きな傷を持ち、重厚な鎧を身に纏った大柄な老兵。蓄えた白い髭が大人の渋さを醸し出している。


「皆様、ようこそ楽園竜アイランド・ドラゴンへ、わたくしはアスガルド家当主リサーナと申します。以後、お見知りおきを」


 リサーナはスカートの両裾を掴み、軽く会釈した。


「それでは早速、皆様の気になっている楽園竜アイランド・ドラゴンのエリアの説明を致します」


 リサーナは右手を挙げた。


 すると、

 魔力で形成された巨大なボードがリサーナと老兵の背後に現れる。

 ボードにはここ楽園竜アイランド・ドラゴンの全体地図が表示された。


「まず、今我々がいる楽園竜アイランド・ドラゴンの上半身部が居住区エリア、もう半身が探索エリアとなっています」


 そして地図が拡大され、探索エリアの全体が映し出された。


「探索エリアは大きく3つに分けられ、市街地エリアから離れるほど難易度が上がっていきます。近い順から草原、地下水脈、鉱山エリアです」


 リサーナは指し示す為の棒を用いてテキパキと説明する。


「鉱山エリアが1番難易度が高いのか」


「マー兄のお目当てはもちろん鉱山エリアだよね〜」


「ああ、俺の1番の楽しみはそこにある」


 マキナの気持ちが昂っていく。

 貴重な鉱石が採れる鉱山エリアを目当てにここにやってくる者は多いだろう。


「しかし、難易度の高いエリアになればなるほど命の危険が伴います。私達と致しましても、この楽園竜アイランド・ドラゴンでは安全に過ごして貰いたく思います」


 すると、リサーナの横の老兵が一歩前に出る。


「よってこのワシ、ベルフェムトが試験官となり、君たちの入れるエリアを決めようと思う」


 その名を聞いた周りの冒険者が騒つく。


「え、もしかしてあの人が!?」


「砂塵のベルフェムトだ、間違いない!」


 ベローネはポツリと呟く。


「砂塵のベルフェムト、噂に違わぬ威圧感だ」


 「一体誰なんだ?」


「オオグラルコンガをたった1人で討伐した記録を持つ唯一の人間だ。冒険者を引退したとは聞いていたが、まさかここにいらっしゃるとは」


「そんな凄い人だったのか」

 

 興奮冷めやらぬ中、ベルフェムトが口を開く。


「最低限草原エリアは保証しよう。地下水脈、鉱山エリアはワシの裁量で決める形になるが理解して欲しい。実戦形式の試験となるがワシからは攻撃はせん、あくまで君達の攻撃を受け止める形で判断する」


 そして、試験が始まった。

 各パーティーから代表の1人が選ばれ、合図が出るとベルフェムトに攻撃を試みる。


 数十秒経つと、彼が最終的にそのパーティーの進入可能とみなしたエリアを告げる、という流れだ。

 一回一回が短い為、試験はつつがなく進行した。


 『虹の蝶』の番号はラストの72番、あと数回で順番が回ってくるところで、マキナがとある事に気が付いた。


「……鉱山エリアの合格パーティーがいない」


 そう、

 目の前で何十回と繰り返されている試験。地下水脈エリアは兎も角、未だに鉱山エリアを許可されたパーティーは存在しなかったのだ。


「よっぽど厳しいみたいね」


「あうう、何か緊張してきたかも……」

 

 アリアはソワソワしながら言った。

 無理もない、この中で誰が呼ばれるかも分からないのだから。


「……最後、72番!」


「はう、ついに呼ばれたよぉ!」


「よし、行くぞ」


 4人はベルフェムトの前に立った。


「その紋章、もしや『虹の蝶』だな?」


「はい、宜しくお願いします」


 『虹の蝶』の名を聞いた冒険者達が再度騒めく。


「え! 『虹の蝶』だってよ!?」


「あの『影の悪魔』をたった4人で倒したっていう!?」


「ってことは……今目の前にいるのがその4人なんじゃ!?」


 会場内は軽いパニックに陥った。


「君達のことは知っている、この中で我々楽園竜アイランド・ドラゴン側が唯一招待したパーティーなのだからな」


「ありがとうございます」


「ただ、今はっきりと分かったことがある。ワシは貴様が気に入らん!!」


 ベルフェムトは睨みを効かせ、マキナに指を強く指した。


「……え、俺!?」


「そうだ貴様だ、可憐な若い娘達を周りにはべらかせおってけしからん! ワシは貴様をコテンパンにしたくなったぞ!!」


 確かにマキナのパーティーは、彼を除いたらアリア、ステラ、ベローネの女性陣で構成されている。


「ハーレムなんぞワシは認めん! せめて男2女2だ!!」


「ベル、何を言っているのですか!! 今すぐやめなさい!!」


 見兼ねたリサーナが叱りつけるが、ベルフェムトは止まらない。


「止めないで下されぇお嬢様! ワシは幼少期から修行に明け暮れ女性とは手も握ったこともなかった……だからワシは甘酸っぱい冒険者生活を送っているであろうこの男が許せんのです!」


 ベルフェムトは眼から血の涙を流す。


「完全に私怨の塊じゃないの」


 ステラは呆れながら呟く。


「だが二つ名を持っているほどだ、実力は計り知れんぞ」


 ベローネは冷静に言った。

 事実、幾度となく試験は繰り返されたが、彼はまるで息を上げる様子がなかった。


 マキナはベルフェムトの前に立つ。


「何はどうあれ、鉱山エリアに行っていいかどうかは俺で判断してくれるんですね?」


「その口振りからして鉱山エリア希望か。毎回いるのだよ、やる気だけは一人前の奴が」


 マキナは【収納】で武器を取り出す。


 ――戦蛇棍せんだこんニーズヘッグ。

 肘の下部に棒が配置されるように装備する、所謂トンファーと呼称される武器だ。

 このニーズヘッグには、棒部分に蛇が巻き付いたデザインが施されていた。


「ほう、貴様トンファー使いか」


「今回はこれで行きます」


「今回は? まあいい……貴様に問おう、オオグラルコンガの戦闘経験は?」


「ありません、グラルコンガの群れならあります」


「一定の力はある、と言う訳か。ただ普通のグラルコンガとオオグラルコンガではランクがまるで違う、それがそのままワシと貴様の力の差なのだ! どんな攻撃もこの王牙おうがの鎧が受け止める!」


 ベルフェムトは鎧を前面に向けるように胸を張り、斧を構えた。


王牙おうがの鎧、近距離武器の衝撃を半減させる効果を持つ防具だ。一体どうする、マキナ……?」


 ベローネは腕を組みながら1人呟いた。


 そして、合図と共に『虹の蝶』の試験が始まる。

 マキナはベルフェムトを視界に捉え、武器を構える事なく歩く。


 まるで隙だらけだ。


「何やってんのよマキナ! やる気あんの!?」


 ステラが思わず声を上げる。

 周りの冒険者もほぼ同じことを考えているだろう。


「……!?」


 だが、ベルフェムトは動けなかった。

 マキナの只ならぬ威圧感、そして武器から発せられる異様さを感じとっていたからだ。


 な、何だこの気迫は、この少年が出しているのか!? さっきとまるで別人ではないか!?


 マキナはそのまま歩き続ける。


 それにあの武器はマズイ! ワシの長年の勘がそう告げておる……!!


 マキナは強く踏み込むと一瞬でベルフェムトとの距離を詰める。

 懐まで潜り込んだマキナはニーズヘッグを振るう。


「ま、まいっt――――!?!?」


 バギィイイイイン!!!


 重厚な鎧が音を立て粉々になる。

 ニーズヘッグには、武器自身の威力が低い代わりに【粉砕の加護】という能力がある。

 鎧や盾などの身を守る装備を、問答無用で破壊するのだ。


「がはああああ!?」


 実質生身で攻撃を喰らったベルフェムトは白目を剥いたまま倒れると、ピクピクと死にかけの虫のように痙攣し始めた。


「まぁ……!」


 リサーナは口元に軽く手を添えると目を丸くした。

 周りの冒険者はあんぐりと口を開く。


「……やってしまった」


 マキナは横たわるベルフェムトを見下ろすと、タラリと汗を流した。

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