第26話 武器メンテナンス


 「あー効いてきたわー、ベヌエ草って本当に酔い覚ましになるんだ」


 朝の一悶着から数時間後。

 二日酔いで苦しむステラはマキナが即席で作った薬を服用する。

 頭を押さえ、その効力を実感する。


 「助かったわマキナ、お陰で楽になったわ」


 「ならよかった、悪いな昨日の今日で」


 マキナは向き直る。


 「2人も悪いな」


 「別に気にしなくていいよ〜」


 「何の予定もなかったからな、問題ない」


 アリア、ベローネは各々らしい返事を返す。

 マキナは自宅に併設された鍛冶場に彼女達を招き入れていた。


 中は様々な道具や鍛治設備、そして部屋の真ん中には大きな作業台が設置されている。


 「実は皆の武器のメンテナンスをしときたいんだ。パーティーを組む前から使っているだろうし、一度見ておきたいんだ」


 「なるほど! 今出すね〜」


 「確かに全員いるし丁度いいわね」


 「すまないな、宜しく頼むぞマキナ」


 アリアは両腰の鞘からオルトロスを、ステラは肩のホルダーからリンドヴルムを、ベローネは背中の鞘からストームブリンガーを抜き取る。


 そしてそれぞれが丁寧に作業台に置かれる。


 まずは肉眼で確認。

 マキナはオルトロスを手に取る。

 眼に見える外傷は無く、新品と言われても信じてしまうほど状態が良い。

 リンドヴルム、ストームブリンガーも同様だった。


 続けてマキナは鍛治スキル【武器ステータス】による確認に入る。



 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 武器:双牙剣オルトロス

 耐久値:(1497/1500)


 武器:竜撃槍リンドヴルム

 耐久値:(1999/2000)


 武器:退魔剣ストームブリンガー

 耐久値:(2998/3000)


 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇



 「......ここまでとはな」


 実際の耐久力を数値化出来る【武器ステータス】で確認しても、武器のダメージは最小限に抑えられていることが分かる。


 「どうだった、マー兄??」


 マキナの真剣な顔をアリアは不安そうに覗きこむ。


 「耐久値がほぼ減ってない、全員上手く使えてる証拠だ」


 「よかった〜〜!」


 「そんなに心配だったのか??」


 「だってせっかくマー兄が作ってくれたのに壊しちゃったらヤダもん!」


 アリアは胸を撫で下ろしながら言った。


 そして、

 マキナはとあることに気付く。


 「もしかして、皆自分で手入れしてくれてるのか??」


 「うん、剣身を布で拭く程度だけど毎日やってるよ!」


 「剣を使う以上、わずかな汚れや埃でも命取りだからな。剣士の常識だ」


 「アタシもそうよ、自分の使う武器なんだから当然じゃない」


 3人の内容は同じだった。

 耐久値はその武器の切れ味によっても左右される。武器が上手く本来の力を発揮出来れば、耐久値も消費しにくくなるのだ。


 ダメージを最小限に抑えられたのは彼女達の武器の理解、武器に対する向き合い方の賜物だった。


 「マー兄も安心した??」


 「ああ、この調子なら20年は余裕で使い続けられるぞ」


 「す、すごいねそれ」


 「一人一人が大事にしてるお陰だ、もう俺の確認も必要なさそうだ」


 「ーーそれは駄目!!」


 声を荒げたのはステラだった。

 マキナ達3人の視線が集中し、発した本人も自分の発言に戸惑っていた。


 「......あ、あれよ、それだといざという時に何かあったら困るじゃないの! 定期的にチェックするのを提案するわ! そうね、1日に3回ってのはどう!?」


 目を泳がしながら言うステラ。


 「それだとそっちが面倒じゃないか?」


 「いいのよ! こういうのは多い方が!」


 「ステラの言うことは一理あるな。表に出る損傷はともかく、君の言う耐久値? までは我々には見えないからな。1日3回は多いが1週間に1回はお願いしたいぞ」


 ベローネは落ち着いた口調で口を開く。


 「そっか、分かった。ステラもそれでいいか?」


 「う、うん、まぁ折れてあげようじゃない!」


 ぷいっと顔を背けるステラ。


 「ステラちゃんの大事にしたいって気持ち分かるな〜、この前ギルドでリンドヴルムいっぱい撫でてたもんね!」


 「なっ、どうしてそれを!?」


 「私も見たぞ、ニヤニヤしながら槍頭そうとうを磨いていたな」


 「忘れなさいっ! 忘れなさいよ!」


 「はいはーい! 私オルトロスを枕元に置いて寝てまーす!!」


 意気揚々に語る3人。

 自分の作った武器がここまで気に入って貰えていると、なんだかむず痒くなってしまう。


 「お前らも、よかったな」


 マキナは作業台の武器に語りかけるように、小さく呟くのだった。

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