第25話 柔らかな目覚め


 アリアと2人がかりで何とかステラを抑えたマキナは、流石に自身の疲労を感じずにはいられなかった。


 己の武器を持ち、その扱いに長けた人物の本気(暴走)は何より恐ろしいと肌で理解したのだ。


 そんな賑やかなパーティーも終わりの時間を迎え、皆が続々とギルドを後にしていく。


「マキナさん、今日はいろいろ話してくれてありがとうございます!」


「ああ、こっちも話せて楽しかったよ」


「また活躍聞かせてください!」


「今度街の酒場でも飲みましょ! 俺良い店知ってます!」


 帰る間際、マキナに挨拶をしてから帰る団員達。

 一人一人に言葉を返し、背中を見送る。


「アリア、俺達も帰るぞ」


 マキナはテーブルに突っ伏しているアリアの肩を揺らす。


「……ふああー、マー兄?」


 起き上がると目を擦りながら大欠伸をした。たくさん楽しんでアリアも疲れたんだろう。無理もない。


「マキナ、今日はありがとう。パーティーとしての絆がより深まったと私は思うぞ」


 ベローネはすっかり酔い潰れて寝息をたてるステラをお姫様抱っこしながら言った。

 ステラは恥ずかしさで暴れ回った後、自分を誤魔化すようにエールを飲んでいたのだ。


「うう〜ん」


 ベローネの身体に頭を預けるステラ。


「とりあえずこのままって訳にはいかないな、アリアは家が隣の俺が送るよ」


「ああ、だがあいにく私はステラの家を知らない。かと言ってこの状態の彼女を起こして聞くのは気が引ける。アリアの家に泊めてもらうのはどうだろうか?」


「それがいいな」


「私もこの際だ、今日はアリアに泊めてもらうとしよう」


「それでも大丈夫か、アリア?」


「うん、いいよ〜」


 アリアは目を擦りながら提案を受け入れる。


 寝惚けたままだと怪我をするかもしれない、マキナはアリアをおぶり、無事に家まで送り届けたのだった。



 ◇



 翌朝、

 窓から差す穏やかな朝陽が1日の始まりを告げる。

 マキナは自宅のベッドの上で若干の寝苦しさを覚えながら覚醒した。


 ベッドが狭くなっている、そんな感覚があった。

 壁側に寝返りをうつと身体が柔らかいものに触れ、同時に温かさが肌を通して伝わる。


「うーん……」


 目を瞑りながら右手でその違和感を確認する。

 自分の体温で温まった布団とは違い、それ自体が熱を持ち、手から溢れる大きさで弾力もあった。


 起きたばかりの頭では答えを出せない。

 マキナは重くなった瞼を開け、視界を確認する。


 まず真っ先に広がった色は、肌色だった。


「……え」

 

「う、ううん」


 ベローネが何も身につけず、生まれたままの姿で寝ていたのだ。

 そしてマキナが右手を伸ばし触れていたのは、彼女の豊満な胸だった。


「――どわあああああ!?!?!?」


 腹から声が出た。

 マキナはベッドから転がり落ち、受け身を取れず床に激突する。


「ぐああ……!?」


 理解が追いつかなかった。

 何故ベローネが横で寝てるのも、何故裸なのかも、寝起きでなくても分かることではない。


「うう、ふああ……! よく寝られた」


 マキナの絶叫でベローネは目を覚ました。


 彼女は両腕を上げ身体を伸ばすと、胸もその動きに合わせて自由奔放に大きく揺れた。


「おはようマキナ、む、一体どうしたのだ? そんなところで?」


 ベローネは身体を晒しながら平然とマキナに話しかける。


「……何でここにいるんですか?」


 何故か敬語になってしまった。

 色々聞きたいことが多すぎたが、とりあえず根本的なところから確認することにした。


「実はな、あの後アリアの家のベッドでどのように寝るか話したんだ、3人で寝るのは流石に厳しいからな。まずステラは横になる必要があるし、家主のアリアを差し置いて寝るわけにもいかない」


「……だから俺の家にきたのか」


「君は1人暮らしだ、ベッドだとしても少なくとも私の寝られるスペースはあると考えた。私の読みは完璧だったな」


「……何で裸なんだ」


「家で寝るときはいつもこれだ、余計な物を身に付けていると上手く寝付けないんだ。何か問題があるのか?」


「大アリだ! とりあえず前隠せ!!」


 ベローネは腕で胸と秘部を隠す。


「じ、じっくり見るのはやめてくれ、流石の私でも恥ずかしいぞ……」


「ならさっさと服着ろ! 習慣で人に迷惑かけるな!」


「心配するな、君以外にこんな姿はみせない」


「それじゃ俺にもやめて完璧にしろ!」


「――マー兄どうしたの〜?? 凄い声聞こえたけど??」


 部屋の外から聞こえてくるアリアの声。

 マキナの絶叫は隣のアリアの家にまで響いていた、声の位置から察するに入り口付近にいるのは間違いない。


「鍵かかってないから入っちゃうよー」


「ま、まてアリア! 今はまずい」


 スタスタとこちらに向かっている足音が聞こえる、そして。


 がちゃり

 無常にもドアは開けられる。


「マー兄、何かあっ――」


 アリアの眼にはマキナと、ベッドの上で裸になったベローネが映しだされる。


「へ」


「……」


「……」


 アリアの目が点になり、しばし沈黙の時間が流れた。


 そして顔が急激に真っ赤になる。


「ご、ごめ!? ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい!!!! 空気読めなくてごめんなさい!! 私気をつけるから!! 次からちゃんとするから!! だから、ごめんなさああああい!!!!」


 バタンッ!! と扉を閉め、駆ける足音が遠ざかっていく。


「すまない、アリアで2人目になってしまった」


「……はぁ」


 ため息を吐くマキナ。

 アリアの誤解を解くのに多大な時間を要したのだった。

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