第10話 マキナ、ツンデレ槍使いを助ける
その頃、ステラは陽が沈んだ山岳地帯の岩陰で身を隠しながら震えていた。
近くには目を赤く光らせたデビルジャッカルが、荒々しい鳴き声を挙げ、巨大な2本の角を振り回しながら辺りを彷徨いている。
ギギギギィィ!!
う、迂闊だった、
まさかこんなに強いなんて……。
ステラが標的にしたのは不幸にも大型の個体、デビルジャッカル自体を見たことがなかったので最悪の個体に挑んでしまった。
どんなモンスターも今まで一撃で倒してきた、アタシの槍なら貫けないものはないとステラは信じてやまなかった。
だからこそ、打ち砕かれた時のショックは大きい。
「アタシ、ここで死ぬのかな……」
死、
モンスターから逃げきれなかった冒険者の末路。
ましてこちらが勝負を挑んだ以上、文句は言えない。
「死にたくない……死にたくないよぉ」
でもステラは『虹の蝶』で1番の槍使いという点を除けばただの女の子だ、怖いものは怖い。
槍を両手で握り、必死に息を殺していた。
ステラが思い出すのはギルドでのマキナとの会話。
『やめておけ、返り討ちにあうぞ』
「アイツの言うこと、聞いてればよかった。ううう……ぐすっ」
ボロボロと涙が流れる。
自分の行動がどれだけ愚かだったか、どれだけ後悔しても取り返しがつかない。
ギギギギィィィィ!!!!
突如、デビルジャッカルが雄叫びを上げる。
「ひっ!?!?」
思わず驚き、大きな声を出してしまった。
そしてデビルジャッカルは回り込み、ステラを視界に捉えると巨大な角を突き出し突進していく!
ギギギギィィィィ!!!!
「いやあああ!!!!」
その時、
デビルジャッカルは真横に大きく吹き飛んだ。
「……へ?」
ステラの眼には、
竜の装飾が施された槍を持つマキナの姿。
彼の槍による一撃により、デビルジャッカルは倒されたのだ。
マキナはステラのそばによる。
「大丈夫か」
「な、なんでここに?」
「あの会話が最後だと後味悪いからな」
「アタシ、アンタに散々酷いこと言ったのに……」
ステラは俯く。
デビルジャッカルを倒せると啖呵を切った手前、罪悪感でいっぱいだった。
「そんなこと気にするな、誰でも自分の力を低く見積もられたら良い気分じゃないもんな」
「え……」
「正直もう間に合わないと思ってたんだ、ここまでよく持ち堪えた、君は強いよ」
「……う、うう、怖かったよおおおお!!うえええん!!!!」
ステラはマキナに抱き付きわんわんと泣き出した。
そんなマキナは戸惑いつつもステラを落ち着かせるために頭を撫でてあげた。
◇
数日後。
マキナとアリアは『虹の蝶』の酒場で昼食をとっていた。
「でもこの前はびっくりしたよ、マー兄が飛び出したと思ったらステラちゃんおぶって帰ってくるんだもん」
アリアはそう言いながら骨付き肉をむしゃむしゃ食べる。
あの後、マキナはステラを背負い無事に帰還すると『虹の蝶』の治療室に預けた。
素人のマキナからみても軽傷で済んでいたため、大事には至らないはずだ。
「時間との勝負だったからな、少しでも遅れてたら危なかった」
「でもステラちゃんが無事でよかったよ! やっぱりマー兄は凄いね!」
アリアは笑顔でむしゃむしゃと顔より大きい骨付き肉を平らげていく。これで7本目だ。
「ん?」
「あ、ステラちゃん!」
するとマキナ達のテーブルにステラがやってきた。
「もう大丈夫なのか?」
「うん、もう動けるくらいには」
「そうか、それは良かった」
「……あのさ」
「そうだ、渡したいものがあるんだ」
「?」
マキナは鍛治スキル【収納】である武器を取り出した。
――
彼がステラを助けるときに使った、竜の意匠が施された槍だ。
「俺の作った槍だ、良ければあげるよ」
「え……」
「また無茶なことされたら俺の身も持たないからな」
「でも貰えないわよ、こんな凄い武器……」
「いいんだ、武器は他にも持ってるし。使いこなせる人が持った方がいい」
マキナはステラにリンドヴルムを渡す。
そんなステラは握ったまま顔を下に向け、ボソリと呟く。
「……がと」
「?」
「……りがと」
「なんか言ったか? 小さくて聞こえないぞ?」
するとステラはバッ! と頭を上げた、
その顔は熟れたリンゴのように真っ赤だった。
「――ありがとうって言ったの!! アタシが
お礼を言うなんて滅多にないのよ!! それなのに何度も何度も聞きこぼすなんて耳おかしいんじゃないの!! アタシだけじゃなくてアンタも1回診てもらった方が良いかもね!!」
「いや本当に聞こえなかったんだ」
「嘘よ嘘!!」
「まあまあステラちゃん、一緒に食べよーよ。空腹だとカリカリしちゃうよね、分かるよ」
「お腹空いてて怒ってるんじゃない!」
「いらないのか? なら返してくれ」
「いるわよ!」
ステラはビシッとマキナを指差すと、高らかに宣言した。
「私、絶対に負けないから! マキナ……! いつかアンタもベローネも追い抜いて『虹の蝶』最強の冒険者になるんだから!!」
「そうか、応援するぞ」
「ふん、余裕かましてられるのも今のうちよ!! この槍を私にあげた事を後悔するわよ!!」
頬を膨らませながら立ち去るステラ。
マキナ達から見えないところまで行くとリンドヴルムをぎゅっと抱き締め、笑顔で走り出すのだった。
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