第11話 ズレた女剣士
夕方、
マキナは今日もクエストを終え、家に帰宅した。
「ふぅ、今日も無事に帰れた」
『虹の蝶』に入団してから1週間が経ち、アリアと共同でクエストをこなす日々は続いている。
少し変わった点があるならばステラとバッタリ会うことが多くなっていた。
「や、やあマキナ、偶然ね!!」
クエスト先にも、酒場で休憩してるときも、帰るタイミングもよく彼女に出会う、かれこれ30回以上はエンカウントしている。
そんな不自然なこともマキナにとっては『ただの偶然』という結論に至っていた。
とりあえずシャワーでも浴びるか。
丸一日動いていたため身体中が汗でベトついて気持ち悪い。
湯を張るべく、マキナはシャワールームの扉を開けた。
「……ん?」
「ああ、マキナか、待っていたぞ」
先客がいた、
『虹の蝶』の女剣士――壮麗のベローネが、一糸纏わぬ姿でシャワーを浴びていた。
再度言うがここはマキナの家だ。
「すまない、シャワーを借りていた」
その主張の激しい胸も、腰から下も一切隠そうとしない。
マキナは反射ですぐさま扉を閉めた。
「……何故ここにいる!?」
そのまま背中を預けながら1番の疑問をぶつける。
「君に頼みごとがあってな、いざ家に来てみれば鍵が開いていたのだ。不審者が来ないとは限らんしな、防犯も兼ねて中に入らせてもらった」
「だからって普通他人の家でシャワー浴びないだろ、その不審者はお前のことだ。大体なんで俺の家を知ってんだ」
「この前アリアが教えてくれたんだ、私の家の隣だとな」
「アイツかぁ……」
「無用心もいいところだ、気を付けたほうがいい」
「なんで俺が怒られてんだ!」
不法侵入された挙句にお叱りをうける、あまりに理不尽だ。
「まぁいい、それで用件は?」
「実は2つあってな。マキナ、君に作ってほしい武器があるんだ」
ベローネはシャワーを止める。
「ストームブリンガーだ」
「……退魔の剣か」
――
「今まで愛用していたロングソードもそろそろ限界だ。これを機に装備を新調しなければと思っていたのだ」
「ストームブリンガーなら高ランクの魔石が必要になるな」
魔石とは、魔力が埋め込まれた黒い水晶のような石だ。魔術に使う杖や指輪に使うだけではなく、ランプや暖房など様々な用途で使用されている。
「ああ、だから私の魔石調達に同行してほしい。これが2つ目の頼みだ、お願いできるだろうか?」
「なるほど」
ストームブリンガーは剣身が魔石で作られているため、剣という武器の性質上強度も重要になる。
魔法反射、剣としての強靭さを兼ね備えるにはランクの高い魔石が必要不可欠だ。
「わかった、引き受ける」
「ありがとう、決行は明日の早朝だ。よろしく頼む」
チャプン、と身体を湯船に沈める音が聞こえた。
入浴を堪能する気だな。
「ああそうだ、思っていたより居心地がいいから今日は泊まるぞ?」
「帰れ!!」
マキナの絶叫が部屋中に響いた。
◇
マキナとベローネはロマーレ山脈に到着した。
王国の北部に位置する、年中雪で白く彩られたこの山脈は魔石発掘の場所で知られている。
「採取ポイントは予め把握している、では行こう」
ベローネは白い息を吐きながら地図を広げ、チェックをつけた場所と現在地を照らし合わせる。
「ちょっと待て」
「どうしたマキナ?」
「ここならいい場所を知っているんだ、俺に任せてくれないか」
「……? ああ、わかった」
マキナは雪をしっかり踏みしめながら先頭を歩き出し、ベローネはその後を付いていく。
そして歩いて登るを繰り返すこと20分、
急に整備された道が現れた。
道端には等間隔で鉄の杭が打たれており、落ちないようにロープまで張られている。
こんな道は地図にも載っていない。
「これは……?」
ベローネは目を見開く。
「俺が半年前、採取の時に見つけたポイントまでの道だ。また来る時に分かりやすいようにしといたんだ」
「なるほど、ロープまで張るとは随分念入りだな」
「まぁな、一回
「……は?」
「足滑らして落っこちたんだ」
マキナは淡々と言う。
あの時は死ぬかと思った。
だから
そんなベローネは恐る恐る谷底を覗く。
目の前に広がる漆黒は、どれほどまで深いかは想像も出来ないだろう。
「どうしたベローネ?」
「……なぜ生きている」
「幽霊を見るような目はやめろ」
「ふっ、どうやら私が思っていた以上の男のようだな、マキナ」
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