第9話 そんな装備で大丈夫か?


 ハウンドウルフの群れを討伐して数日後、

 マキナ達は今日もクエストを受注するために『虹の蝶』のギルドに来ていた。


「やっぱりすごいな、このギルドは」


 クエストボードの前は団員達でごったがえしており、活気に満ち溢れている。


「毎回朝はこんな感じなんだよね、お昼には追加発注されたクエストも掲示されるからもっと混むんだー」


「なら落ち着くまで中で待つか、追加発注のクエストが来る前なら比較的空いてるだろうし」


 そう言いながら2人はギルド内に併設された酒場に向かった。


「――あっ、ステラちゃん!」


 するとアリアは、酒場の壁に背を預けながらホットドッグを食べている女の子に声をかけた。


 金色の髪をポニーテールで纏め、ハーフパンツから伸びる太腿。背中には長槍を装備したアリアと同い年くらいの子だ。


「あら、アリアじゃん」


「おはよー、珍しいねー、こんな時間にいるなんて」


「友達か、アリア?」


「この子はステラちゃん。このギルドで1番強い槍使いなんだよ!」 


 紹介されたステラはマキナに興味がないと言わんばかりにホットドッグを食べ進める。


「でねステラちゃん。この人がマ――」


「知ってる、ベローネに勝ったとかいう人でしょ?」


 食べ終えたステラは指先に付いたソースをペロリと舐める。


「なんか思ってたより弱そう」


 笑いを交えながら悪びれもせずにそう言った。


「そんなことないよ! この間だってワーウルフを簡単に倒したんだから」


「ふーん、どうだかね。ベローネは『虹の蝶』最強の剣士なのよ。たまたま調子悪かっただけでしょ? 私が倒そうと思ってたのにベローネもなに負けてんだか」


「マー兄は強いもん!」


「いいよアリア、俺は気にしないから」


「あうう、あたしゃ悔しいよぅ……」


 アリアはガックリとこうべを垂らす。

 ステラはベローネの強さを知っているからこそ、彼女が負けたことを完全には認められないのだ。


「んじゃアタシ、デビルジャッカルの討伐に行ってくるから。さよならアリアとおにーさん」


 その場から立ち去ろうとするステラ、

 しかし。


「ちょっと待て」


 マキナが呼び止めた。


「何よ、やっぱり文句でも言いたくなったの??」


「その装備で行くつもりか?」

  

「そうよ、で?」


「やめたほうがいい、返り討ちにあうぞ」


「……アタシが弱いって言ってんの? 馬鹿にしないで!」


「討伐したことはあるのか?」


「ないわよ、今日が初めてだもん。でもアタシなら楽勝よ、楽勝!」


 マキナは鍛治スキル【武器ステータス】を起動させていた。


 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 武器:鋼の長槍

 威力:90

 耐久値:(100/100)


 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇


「槍の性能が低すぎる、いくら君が実力者でもデビルジャッカル討伐は自殺行為だ」


 マキナはデビルジャッカルとの戦闘経験があった。

 討伐するには、弱い個体でも威力180以上の武器でなければ難しいと体感的に感じていたのだ。


「はっ、流石ベローネに勝っただけのことはあるわね! それだけデカい口を叩けるんだもん、どうせラッキーで勝ったんでしょ!」


「今ならまだ間に合う、クエストキャンセルするんだ」


「はいはいご忠告どうも。でもこんなクエストお昼までに終わらせてやるわよ、じゃ!」


 マキナの説得虚しくステラは去っていった。



 ◇



「ええ、ステラちゃんまだ帰ってきてないの!?」


 夕方、

 マキナとアリアが今日のクエストを達成させ、ギルドに戻った時に団員達がたまたま話していたのをアリアが聞いたのだ。


「ああ、こんな時間にも戻ってこないなんて珍しいよな……」


「たまたまじゃねーの? ステラがクエスト失敗するなんて聞いたことないぞ」


「でも、もしかしたら……」


「やめろよ、縁起でもない!」


 事実、ステラは『虹の蝶』の中でも上位に入る実力だと団員達は認知していた。

 それが逆に「救援に向かうかどうか」いう判断を出来なくさせていたのだ。


「大丈夫かなステラちゃん……ってマー兄!?」


「デビルジャッカルは山岳地帯だったな!」


 マキナは一目散に走り出す、

 この場で唯一行動に移せたのは、他でもない彼だけだった。

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