第11話 覚悟を決めた



「どうすれば?! 殿下は、私が“ヴィクトル”だと思ってるから……私。食べられちゃうの??」


お母様の亡骸を見て混乱と絶望にその場にへたり込む。


「まあ、それは半分当たっているのよね」


問題発言??


「ヴィクトルの魂を取り込んじゃってるのよ。そうでもしないと、貴女は助からなかったから。竜の勘って、恐ろしいわね」


「……は、助からなかったの?」


“あなた”とは、双子の。


「そうね。彼女は無理だったの……私が、こちらに来る為に媒体として体を頂いちゃったけど。タイミングよくヴァロアが花を与えてくれたから出来たことで、この世界に来れたの」


「あ。じゃあ、助けてくれた光は、」

「そう。私。貴女が花を食べ続けてるから、多少なら干渉出来たの」


「金色の花の力なの?」


「そうね。金色の花は、精霊界の花で、そもそも、あちらの食べ物を食べてしまったら、あちらの食べ物しか受け付けなくなるのよ。まあ、花だけどね。

貴女も父親も異例よ。今までで一番のトラブルだわ」


何とも言えなくて、口を噤む。


「愛しくて悲しいからって、その体食べちゃうって何よ?! それで脅して言うこときかせて、駄々こねた子どもかっての!」


小さい体で荒く捲し立て、肩がいかる。


「一番のバカは、その我儘訊いちゃった私の夫よ! それでね、とんでもない方向に行ってるってので、こっちの世界に、単身で、転生してしまったのよ! 一応、責任感じてるみたいで……私のせいで、変に考え方が人間くさくなっちゃってさ」


六枚の翅がゆっくりと閉じられて、しょぼんと項垂れた妖精ヴァロアが可哀想になって来た。


「それで、ここからがお願いなの……あの人を探して欲しいの。繋がってたのよ始めは、金色の花を望んだから送ってた。だけど、この三週間ほど、行方が分からないの……心配で心配で」


ポロポロと、小さな体から考えられない程の大きな涙が零れ出す。


「バカよ。大バカものよ」


そっと、手の中に包んで頭を撫でてやる。


「探して欲しいの。あの人を……」


嫌がってた相手に絆されて、それが愛に変わったのかな?

不思議なものねと、小さく笑う。

私には分からない。家族愛は解ってるつもり。

だけど、男女の愛は分からない。

理解出来ない。


お母様の髑髏を見る。

愛しくて、悲しくて、お父様は壊れてしまったんだ。

想像だけなら出来るけど、そこまでの愛はやっぱり理解出来ない。


兎に角、行動しなくては。


「見つけたら、助けてもらえるの?」


私の目線と合わせて訊く。


「もちろん! その為にこちらに来たのよ?」


「分かったわ。朝一番で出かけましょう? とりあえず、食花して、寝ます!」


意気揚々と立ち上がる。

私は女性騎士までになった女よ。


竜になんて、負けてなるものか!


ランプの火を落として、そっと、隠し部屋の木戸を閉める。


お祖母様から聞いた時は実感がなかった。

私の中に居ると言うお母様。私を助けてくれてありがとうございました。


私は負けない。


金粉を飛ばしながら、妖精ヴァロアが着いてくる。


「ねえ、同じヴァロアはややこしいから、私のことは“ロア”で良いわよ」


「ありがとう。ロア」


可愛らしく笑うロアの小さな手が、私の差し出した指先と握手する。


「さあ、たんと食べなさい」


ロアがふわりと宙を丸く飛ぶと、ぶわり と、金色の花が降って来た。

それはもう、何輪と。


あははは と、笑い声が弾けた。


考えごとはまた明日から。


例え、

アウローレンス殿下がお父様だったとか、私の、ヴィクトルの為に大人になっただとか、竜の血が目覚めたら竜になっちゃうとか、お父様がお母様の亡骸を食べちゃってたとか、実は自分が双子だったんだとか、祖の母が、妖精ヴァロアとして降臨しちゃったとか、祖の父が、こちらに転生してるとか……とか……とか。


ええ。

もう、考えないわっ!



それはもう、今までに無いほど食花して、初めて戻す苦しさを知った。






そうして、朝が来る。

眠れなかった。


だってね、よく考えたら逃げ出しちゃったけど、あれからどうなったのかな?

殿下に何されるかな?


ふふ、ふふふ。


気持ちがハイになっていた。




「オッはよー!! 朝ごはんですよ!」


はい。

無駄に元気なかわいこちゃんが、頭から花を降らせます。


「はーい。アリガトウ……」


さあ、新しい一日の始まりです。






初めてのギ フを貰った木の下に立つ。

ここにはお祖母様とお祖父様が寄り添って、その隣りにお父様の墓標があった。


さわさわと葉が風に歌う。


きっと、お祖母様とお祖父様は幸せだった。

お父様は未だに分からない。

だけど、お父様の隣りにお母様の墓標を立てよう。寄り添うように。


過去前世過去前世

現在いま現在いま


だから、

私は前を見る。

絶対に、

立ち止まらない。


そう覚悟する。

そう覚悟を決めた。


さあ、ここからがスタートだ!










幸せになる為に

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