第26話⁂弓枝と徹の馴れ初め!⁂



 実は昴の実父と名乗るこの男、上野徹は昴の実母弓枝の父の部下なのだ。

家が近所で幼い頃からの顔見知り。

 また父親と同じ大学という事もあり、よく家に連れて来ていた。


 弓枝は、幼い頃から母親譲りの近所でも評判の美人。

 勉強はあまり好きではないが、スポ-ツ万能なお転婆娘。


 一方の徹は近所でも評判の成績優秀な息子さん。

 黒ぶち眼鏡を掛けた、如何にもガリ勉タイプの冴えない風貌のお坊っちゃん。


 9歳違いの2人は至る所ですれ違っている。

 浅黒い小顔の八頭身美少女弓枝は、町内を長い手足でカモシカの如く駆け抜けていく。


 ある日の事、この冴えない風貌の瓶底眼鏡の東大生徹は、只々勉強するしか能の無いこの地味~な人生に一筋の光明を見出した思いなのだ。


 それはこの昭和レトロな商店街を一瞬にして————

 アラブ首長国連邦の首都「アブダビ」

 中東の真っ青に広がった空とのコントラストが美しい

 白亜のモスクに変えてしまう程の……。


 それは中東の美少女と見間違う程の造形美の、少女に出くわしたのだ。

 まさにアラブの蜃気楼。


 12歳の弓枝を見た時に{俺の女神はこの娘だ!}こんな冴えない頭でっかちの頭だけ良い男だが{この娘と近付きたい!もっと言うならこの娘しか見えない!この娘の為ならなんだって出来る!}随分年の違う弓枝に一瞬で恋をしてしまったのだ。


 東京都墨田区、根っからの下町育ちの徹と弓枝は人情味あふれる、この地に生を受けた。

 昭和レトロが感じられる、商店街の近くに居を構える住民たちは、古くからの顔見知り。


 古くからの顔見知りだから、弓枝ちゃんのお父さんが警察官だという事もヨクヨク知っている徹。


 一途過ぎる徹は{どんな事をしても弓枝ちゃんに近付きたい、その為には弓枝ちゃんの父親と同じ警察官になろう}

 そんな何とも不純な動機から警察官になったのだ。

 それだけ弓枝ちゃんにビビビッと来てしまったのだ。



 そして大学も弓枝の父親と一緒だった事から、ちょくちょく弓枝ちゃんの家に顔を出すようになって行った。


 こんな冴えない男だったのだが、警察官になる為には文武両道に励まないといけない。

 身体も鍛えて見違えるように凛々しくなった徹なのだ。


 こんな冴えない風貌だが、一にも二にも弓枝ちゃんに気に入られる為には容姿。

 そこで近所の同級生で、頭は空っぽの、オシャレと女の事しか頭にないルックス有りきの友達の力を借りて、瓶底の黒ぶち眼鏡をコンタクトに変え、ファッションもコーディネートしてもらい弓枝の家に顔を出すようになっていった。


 徹25歳、弓枝16歳の夏休みの事だ。

 夏祭りに出掛ける弓枝は束ねた髪に赤のかんざし。


 浴衣の袖を揺らす夏の風に誘われて弓枝が、レースのような花びらの夕顔が咲き誇る庭に出ると、仕事帰りの父と背広姿の徹2人と鉢合わせをした。


 ツーブロックのサラサラヘアー(1988年・吉田栄作や福山雅治)あの当時の超イケメン、吉田栄作のヘアそのままに、高身長で背広姿の爽やかイケメン、ツーブロックのサラサラヘアーをかきあげながら弓枝に近付いて来たのだった。


 徹も淡いブルーに紫色のアサガオを描いた、浴衣姿の弓枝の余りの美しさに、言葉が出ない。

 徹は照れながらやっと一言。

「こんにちわ!」この言葉だけを何とか振り絞って言えたが、緊張してそれ以上言葉が出ない。


 すると弓枝が「……たまに見掛けるお兄さん、こんにちわ!」


 面と向かって話したのはこの日が最初だった。

 弓枝の方もこの爽やかイケメンに一瞬で恋に落ちたのだ。


 こうして2人は徐々に付き合い出した。

 何故あんなに大切に思っていた弓枝に、手を出してしまったのかと言いうと、弓枝ちゃんはあれだけの美人。


 学校の上級生、同級生、下級生達から告られまくり。

 弓枝は9歳も年上の徹に冷めてしまったのだ。


 そこで警察官のキャリアの地位にありながら、若干17歳の弓枝を失いたくないばかりに無理矢理、性的関係を結んでしまった。

 勿論弓枝も徹が嫌いではないし、東大卒のキャリア将来保証されたも同然、同意の下で行った行為。


 そこで生まれたのが、昴と翔の双子なのだ。

 あの狂犬の異名を持つ父にバレたら、弓枝の勘当どころでは済まない。


「大切な娘を傷物にしただけで飽き足らず、17歳の未成年に手を出すとはなんてことだ、淫行条例に反する、お前は即刻首だ!」


 お互い愛し合っているのだから、親に結婚報告すれば良かったのだが、弓枝は警察官になるのが夢。

 徹が{家庭に入るように!}日夜説得したにも拘らず聞き耳を持たない弓枝、そこで仕方なく子供を手放す事にしたのだ。


 まだ18歳の子供。

 仕事と遊びに全力投球したい時期なのだ。

 こんな若い身空で家庭に縛られたくは無かった。

 そこで焦った2人は、あの超有名ラ-メン店に双子を捨てたのだ。


 だが、一方の翔が泣き止まなかったので様子を見ると、口から血を出しているではないか。

 そこで体の丈夫ではない翔を手放さず2人で見る事にした。

{1人くらいなら何とかなるだろう}と言う思いから翔は2人が育てたのだ。


 妊娠を誤魔化す為に2人はあれこれ思案中。

 そして考えた挙句、親には独り立ちすると言って、弓枝は徹のマンションに転がり込んで同棲を始めた。


 6ヶ月位からは双子だし、もう誤魔化せない。

「3月から警察官になる為に独り立ちします」


 合否結果はとっくに出ていたので「親も独り立ちするのなら」と喜んで門出を祝ってくれたのだ。










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