第23話 新たな社員が入りました
夜勤です。
門番の待機室は熱気に溢れています。
なぜかと言うと。
「ちくしょう、ブタだ」
「へっへっへ。一のゾロ目。俺の勝ちだな」
彼らは他の冒険者も巻き込み博打をやり始めました。
掛け金は例によって食料です。
同僚の冒険者はみんな携帯食を山と持っています。
部下にとってはカモみたいです。
かくゆう私も参加して食料をかなり持っていかれました。
ゴブリンさんに差し入れする為にもまた買い込まないといけません。
「主任、ほんとうに賭け事に弱いな。賭場には出入りしない事だ」
「分かっていますよ。いかさまを仕組んであるんでしょう」
「分かってやっていたのか」
「仕事なら本気を出しますが、遊びならこんな物でしょう。仕事ならどんな事をしても勝ってみせます。命を削ろうともです」
「今、殺気を感じたぜ。頼むから本気にならないでくれ」
「ええ、本気にはなりません。みなさん、一時間したら寝ますよ」
「おう」
賭場も終わり、皆が眠りに就きます。
見回りの時間のようです。
聖なる光を出して準備オッケーです。
通用門を出て外壁に沿って移動します。
ドスンドスンと足音が聞こえてきました。
現れたのはブタ鼻の怪人が3人です。
彼らも遺伝子改造の犠牲者ですかね。
身長は2メートルを超えてます。
はち切れんばかりの筋肉と太鼓腹。
髪の毛は短く、少し臭います。
片手には一升瓶より太い棍棒を持ってます。
ぶひぶひ言ってますが、話は出来ないようです。
声帯が人間と違うのでしょう。
「君達、何の用ですか」
「ぶひっ」
棍棒を振りかぶって、振り下ろしてきます。
当然、避けました。
「危ないですね」
「ぶひっ?」
当たらなかったのを不思議がっているようです。
今度は3人が一斉に棍棒で殴りかかって来ました。
ふむ、避けられませんね。
聖なる光強めを魔道具で発動します。
棍棒で私は打ち据えられましたが、痛くないですね。
視界を失って狼狽える3人。
さて、どうしましょ。
電撃で気絶させる事にしました。
感電するのは人間と一緒ですか。
遺伝子改造されても無敵とは程遠いですね。
力がありそうですから、肉体労働の働き手として作られたのかも知れません。
頭が弱そうなので、失敗作になったのでしょう。
ふむ、臭いのは嫌われます。
完徹してる訳ではないでしょう。
身だしなみは整えないと。
営業の仕事はしないかもしれませんが、力仕事とはいえ気のゆるみは死を招きます。
きちっとしないといけない。
洗ってあげましょう。
ええと水を出す呪文は、あったこれです。
魔道具の本から生水の呪文を見つけました。
「
彼らは水を掛けられても寝ています。
ごしごしと手ぬぐいで垢を擦りました。
すごい垢ですね。
いったい何日お風呂に入っていないのでしょう。
手ぬぐいが何本も真っ黒に染まりました。
ふう、いい仕事をしました。
仕上げに。
魔道具の本にあった香りを出す呪文。
「
ふむ、良い匂いになりましたね。
彼らが目を覚ましました。
盛んに自分の匂いを嗅いでいます。
「ぶひぃー」
彼らは慟哭しています。
清潔になって感動したのでしょうか。
なんかハイライトが無くなった目をしてます。
感動のあまり魂が抜け落ちたに違いありません。
彼らはぶひぶひ話し合っていましたが、私を襲って来る素振りは見せません。
「ではお元気で」
そう言って私は見回りを再開しました。
どすどすと足音がするので振り返ると彼らがいます。
一緒に来たい彼らの目がそう言っています。
「仕方ないですね。ついて来なさい」
見回りが終わり通用門を叩きながら合図を言います。
「うおっ、オーク」
門を開けた門番が驚愕の声を上げます。
「彼らは私について来たいようなんですが」
「驚かすなよな。従属紋は見当たらないがどうやって調教した?」
「洗っただけです」
「それはまた酷な事を」
彼らは臭い体が誇りのようです。
そういえばヘロヘロの状態を競っている社員もいましたね。
何日寝てないとか、何日家に帰ってないとかです。
誇りを傷つけたようです
「責任は取ります。みなさん従属させても良いですか」
頷くオーク。
「従属は良いそうです」
「従魔は街に入れられる規則だからな。しかし、お前……まあ、いいか」
私は彼らを従属させました。
Side:門番
驚きだ。
オークをテイムなしに調教した男がいる。
方法を聞いたら頷けた。
知ってるか。
動物は匂いで仲間かどうかを判別する。
匂いを失ったら群れから攻撃されちまう。
酷な事をする。
たとえ、それがオークだとしても、俺には仲間に殺させるなんて酷い事は出来ない。
鬼だ、悪魔だ。
責任を取るって従属させるんじゃねぇか。
責任の取り方が相手を奴隷に落とすなんて、こいつの精神はどうなってやがる。
盗賊にも単身で特攻してたし、壊れているのに違いない。
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