第22話 新人でも出来る奴は一味違います

 夜勤は何もありませんでした。

 遠からずの危機というのは、一体いつなんでしょうか。

 ですが、曖昧な指示もばっちこいです。


 朝になり、社員寮に帰ると騒がしくなっています。


「お前ら、冒険者登録したのか。ずるいぞ」

「こういうのは、先に思いついた奴が得をするんだよ」

「主任、俺達も冒険者登録します」

「ええ、良いですよ」


 部下達を引き連れギルドに行きます。

 登録は別に問題ないですね。

 字が書けない人もいたみたいですが、受付嬢がそつなくこなしたようです。


 字が書けない人が集まった班のレポート作成は地獄ですね。

 一ヶ月は合格できないかも知れません。

 しかし、これも経験です。


 タスもギルドまでついて来ていました。

 腰には木の枝で作った虫かごを沢山ぶら下げてます。


「おいら、森へ行きたい」

「良いですよ。一緒に行きましょう」


「ちょっと、高額依頼はどうなったの」


 ドミニクと目が合いました。


「すいません、今日はお休みです」

「休みをとるなんて珍しいわね」

「社員教育の日です。明日こそは高額依頼を受けます」

「約束よ。絶対よ」

「ええ、分かりました」


 タスとティアの三人で森に行きます。

 タスは樹のそばに行くと、樹の幹を蹴り始めました。


「くそっ、力が足んないや」

「蹴れば良いんですか」


 私が樹を蹴るとドサドサと音がして何か落ちました。

 木の実ですかね。

 良く見ると動いています。

 カブト虫やクワガタのようです。

 タスはそれらを素早く拾い虫かごに入れていきます。


「一杯になったから、街に戻りたい」


 なるほど読めてきました。

 タスは虫を売るようです。


 街に入ると、タスは商店の軒先にゴザを広げます。


「許可は取ったんですか?」

「この店の子供と友達なんだ。露店の食い物で買収してある」


 買収とは穏やかじゃありません。


「こういう時は賃貸料と言いなさい」

「うん」


 店に買い物に来た客が、子供のお土産に、虫を買っていきます。

 売れるものなんですね。

 タスはレポートが書けないので聞いてみる事にします。


「この商売はどういう思い付きで始めましたか?」

「街の子供は森に行けない。だから、迷い込んだのを捕まえるしかないんだ。みんな欲しがってたから、売れると思って」


 なるほど、需要と供給がよく分かっています


「全部、売れたから、虫かごを取りに行って来るよ」

「誰が虫かごを作っているんですか?」

「友達。銅貨一枚で作ってくれるんだ」


 うお、下請けですか。

 びっくりの発想です。

 合格ラインはタスの売り上げにしましょう。

 まさか子供の売り上げを、5人の大人が抜けないなんて事はないでしょう。


 タスが走り去り、ほどなくして虫かごをたくさん腰に付けて帰ってきました。


 森に行くとゴブリンさんが出てきて、虫を捕まえているのを見ると手伝ってくれました。

 カブトの他に蝶やカマキリもいます。

 虫かごが一杯になり街に戻ります。


 タスの商売を観察する事にしました。


「その虫をくれ」

「これは珍しいカブトだから、銀貨1枚」


 客は値切る事もなく買っていきます。


「さっきのカブト虫は珍しいのですね」

「違うよ。珍しいと言うと文句を言わないんだ」


 おー、プレミアム感という奴ですか。

 しばらくして、どうやら売り切ったようです。

 タスは、また虫かごを取りに行きました。


 そして、森に行ったのですが、今度は何やら探しています。


「あった」

「何ですか?」

「この花の汁を塗ると黒い虫が、金ぴかになるんだ」


 カラーひよこの発想ですか。

 タスはなかなかやります。


「良く知ってましたね」

「詐欺師が鉛で出来た偽金貨に、これを塗ると本物そっくりになる。おいら、虫に塗ったら綺麗かと思って、前に試したんだ」


 金ぴか虫は馬鹿売れでした。

 銀貨5枚もするのにこぞって買っていきます。

 笑顔でつがいを買っていった商人なんかみると、大丈夫かなと思わないでもありません。


「小父さんが心配する事はないよ。こんなの見抜けない奴が悪い」


 一日が終わり、社員寮に部下達が帰ってきました。


「結果発表です。1位はタス君です。拍手を」

「そんな」

「姐さんの勝ちかよ」


「説明します。タスは虫かごを子供に作らせ、買い取りました。それに付加価値をつけて売ったのです。見事というしかありません。子供に負けたのだから全員不合格です。今から罰ゲームをしてもらいます。子守唄を表通りで歌って下さい」

「そんな恥ずかしい事ができるか」

「命令です」


 夕暮れの表通りに、むさくるしい男達が立ち歌い始めます。


「いとし子よ♪ お月様に抱かれ眠りなさい♪ どんな夢をみているのでしょう♪ うふふ♪ 大きくなった夢かな♪」

「お母さん、変な人がいる」

「こら、見ちゃいけません」


「こんな罰ゲームは嫌だ」

「合格するまで毎日です」


「くそう、明日は絶対に合格してやる」

「賭けをやり直すぞ。胴元、早くオッズを出せ」


 バイタリティは無駄にありそうです。

 これなら合格できるに違いありません。

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