第19話 社員寮を借ります

 会社に戻ってドミニクが座っているカウンターの前へ並びます。

 タス君と話しているうちに、どうやら私の番が来たようです。


「まさか、奥さんに逃げられたんじゃないわよね」

「いいえ、運び屋をやらされていたので助け出しました」

「そんな事だと思ったわ」


「つきましては家を借りたいので、斡旋してもらえますか」

「良いわよ。どんなのが良い」

「そうですね。20人は住める長屋みたいな物があれば」

「難しいわね。でもあるのよね。違法人身売買組織が使っていたアジトがあるわ。みかけは倉庫だけどちゃんと住めるから」

「ではそこで」


 鍵を貰い家を目指します。


「本当に倉庫よね」

「ええ、ですが、広さは申し分ない」

「おいら、なんか懐かしい気がする」


「故郷の家に似てるのですか」

「違う、思い出した。おいら、ここで育った」

「違法人身売買に関わっていたのですね」

「商品だったんだ」


「違法人身売買組織は許せません。密輸組織もですが」

「なんで、密輸組織が許せないんだよ。飯はたらふく食わせて貰ったぜ」

「覚えておきなさい。子供は夜間に働いてはいけないのです。労働基準法で決まってます」


「えっ、許せないのはそこなの」


 ティアから突っ込みが入りました。

 そんなに驚く事でしょうか。


「ええ、労働基準法を破ると大変です」

「密輸の罪は良いの」

「少年法で保護観察下に置かれます。もちろん密輸組織の大人達は罪を償わないといけません。ですが、麻薬の成分がはっきりしなかったので私の法ではグレーです。禁止薬物であれば黒ですが」

「わけ分からない。いまさらか」


「さあ、入りましょう」


 家に入ると中はゴミが散乱しています。

 部屋は個室ですが、鍵は外からのみ掛かるようになっています。

 牢獄ですね。

 社畜の住処としては相応しい気がします。

 部屋の中は寝台しか置いてありません。

 ふむ、掃除する範囲が狭くて大助かりです。


「ここに住むの。私は宿で良いわ」

「おいらは平気だよ」

「私も大丈夫のようです」

「もう、分かったわよ。ここに住めば良いんでしょ」


「さぁ、清掃員を森に迎えに行きましょう」


 森に行くと元ゲリラの人達が良い笑顔で待っていました。


「おはようございます」

「おはようございます!」


 朝に元気な挨拶は良いですね。


「薬草集めたぜ」


 ティアと二人で検品します。

 みんな気合を入れたようで、結構な事です。

 全員合格しました。


「家を借りたので、今日からそこが下宿です」

「やった。ベッドで寝れる」

「皆さん、薬草をギルドで換金して、朝ごはんを食べて下さい。集合場所はギルドですよ」


 元ゲリラ達は駆け足で街に戻ります。

 よっぽど嬉しいのでしょう。

 みんな笑顔です。


 ロックリザードなどを換金して、露店で朝飯にします。


「タス君、好きなだけ食べて良いですよ」

「うん。何でそんなに親切にしてくれるんだ」

「働いて子供を養ってこそ立派な大人です」


「そうなのか」

「この人の常識はあてにならないわよ。ろくでなしの親なんて、ゴロゴロいるから」


「おいら、今まで親切にしてもらった事がないから、小父さんが正しいと思うぜ」

「そうです。私は正しいのです。労働は美しい」

「分からないけど、おいら働くよ」


 元ゲリラの人達と合流して家に入ります。


「うわ、ひでぇな。盗賊のアジトでも、もうちょっとましだ」

「部屋は片付いてますので、仮眠をとったら、大掃除です」


「牢獄じゃねえか」

「誰がこんな物件を押し付けたんだよ」


「女狐よ」

「姐さんが女狐呼ばわりたぁ、たいしたタマだ」


「鍵は掛けないので自由にしてて良いですよ」

「当たり前だ。そこまでしたら、従属を何としてでも破ってるところだ」

「そうだ、そうだ」

「では解散。タス君も自由にしてて良いですよ。子供は遊びが仕事です。行ってもいいですが、夕飯までには戻りなさい」

「うん、街の子供と遊ぶのは初めて。街に来た時はいつも、一緒に遊びたいと思っていたんだ」


 さて、私は昼の仕事を探しましょうか。

 やりがいのある仕事だといいですが。

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