第18話 見回りは守衛の仕事です

 結局のところ夕方までに合格した班は出ませんでした。

 門番の仕事を前に魔道具屋に寄ります。


「すいません、ここって特注もできますでしょうか」

「ああ、難しいのでなければできるよ」

「メモの魔道具がほしいのと、魔法を切り替えて発動するのがほしいです」


「メモっていうと、あの書くメモかい」

「ええ、書いたり消したりしたいのです」

「できるよ。喋れない人が文字を出す魔道具がある。それを改良すれば良い。メモは何件ぐらい対応したらいいんだ?」

「そうですね。30件もあれば十分かと」


「魔法の切り替えは簡単だ。どんな駆け出しの魔道具屋にも作れるだろう」

「それが自作してみたのですが、魔法が7種類を超えまして。どんな魔法があったのか忘れそうなのです。いやーお恥ずかしい」

「お前さん、7種類もの魔法に適性があるのかい。こりゃ、たまげた」


「単語が書かれたボタンを押すと発動するのが好ましいのですが」

「それなら簡単だ。一応自作した物を見せてくれるかい」


 私は魔道具を見せました。


「ふーん、詠唱だけを魔道具頼りなのか。良くできてるね。必要だと違うねぇ。普通はしない発想だ」

「詠唱の手間が要らないですから、便利だと思いますが」

「この魔道具だと、登録した魔法に適性のない人間には、役に立たないね。大量生産には不向きだ。おまけに魔力の効率が悪くなる」

「いけませんか」

「いや、持ち手が承知しているのなら良い。魔力がなくて、後一回の魔法が出なくて、泣きを見る人もいるだろうね。店としてはクレームが来そうな品だ」

「作って頂けるのでしょうか」

「まあ、特注だから作るよ。弱体化なんて物を頼む物好きも、たまにいるしね」

「良かったです」

「すぐに作るから待っててくれ」


 私は魔道具を受け取り、商品を眺めていたティアに声を掛けました。


「お待たせしました」

「もう、済んだの」

「ええ、おかげさまで」


 早速、付箋の魔道具を起動します。

 『ロックリザード残り8頭』、『元ゲリラを朝に迎えに行く』、『墓場で研修』、『お辞儀教える』とメモしました。

 これで忘れないはずです。


 門番の仕事に行きます。


「今日は使役人がいないのか」

「使役人? ああ、元ゲリラの方々ですか。彼らは森で研修中です」

「あんな奴らでも頭数にはなる。出来るだけ連れて来てくれないか」

「大人気ですね。彼らも喜びます」

「肉壁、違った。優秀な攻撃役はいくらいても良いからな」

「そうですか」


 今日も何かトラブルがあると嬉しいのですが


「ちょっと聞いてくれ。昨晩、外壁よじ登った奴がいる。たぶんコソ泥の類だと思うが、夜に見回りをしてくれるとありがたい。やってくれた奴には特別報酬を出そう」


「私が志願します」

「ちょっと。私はやらないわよ」

「ティアは休んでいて下さい」

「よし、志願者も出た事だし、今日も頼むぞ」


 仮眠をとり大体三時間後に起こされました。

 見回りの時間です。


 聖なる光を使いながら、城壁を一周します。

 むっ、縄が掛かってます。

 上を見上げると誰かがよじ登っている最中です。


「降りて来なさい」

「へへーん、誰が降りるものか」

「ならこうです」


 縄を揺さぶってやりました。


「あわわっ。降参するから、揺らさないで」

「分かればよろしい」


 降りて来たのは子供です。

 はて、門限破りですか。

 確かに大門は夕方には閉められます。


「とりあえず、事情を聴くから来て下さい」


 子供を門番の所に連れて行きます。


「でかした」


 子供の背負いから出て来たのは麻薬の類のようです。

 密輸ですか。

 収納バッグを使えばもっと大規模に出来るはずなんですが。

 私には関係ないですけども。


「言っておくぞ。今日は水浴びを入念にしろ」

「何でですか?」

「麻薬の匂いがついているからだ。門のところで悶着は嫌だろう」

「この子供と歩いて来ただけで付くもの何ですか?」

「ああ、門で飼っているノーズドッグの鼻は誤魔化されない。収納バッグを使っても探知されるぐらいだ」

「分かりました。念入りに洗います」


「それで子供だが、お前の戦利品だ。どうとでもしろ」

「分かりました。坊主、ついて来い」


 子供の頭を撫でました。


「おいら、タスって名前がある」

「よし、タス。夜は一人で留守番できるか」


「馬鹿にしないでよ。おっちゃんは俺が逃げるとか考えないんだな」

「逃げたければ逃げても構いません。しかし、お勧めはできないと思いますよ」

「なんでだよ」

「たぶん、元ゲリラとゴブリンさんが総出で探すと思います。見つかったら正座3時間ですね。辛いですよ」

「そう、覚えておくよ」


 待機室で朝を迎えましたが、タスは逃げませんでした。


「なにあんた、子供を拾ってきているのよ」

「成り行きです。宿を借りないといけなくなりました」

「どうせなら家を借りたら」


「なるほどそうします」


 家で寝る事は殆どないと思いますが、家を借りるのも良いでしょう。

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