第13話 途中入社は大歓迎です

「起きろ。出番だ」


 門の警備に行って、就寝中に頭を叩かれました。

 いよいよ出番ですか。


 同僚はみな青い顔をしています。

 鉄分が不足しているのですか。

 そんな事では激務に耐えられませんよ。


 連れて行かれたのは大門のそばにある通用門です。


 通用門を開けると。


「げひゃひゃひゃ。地獄の門が開いたぜ。何人仕留められるか競争だ」

「早くしないと、商人がどうなってもしらないぜ。このモグラ野郎、早く出て来い」


 おー、ゲリラという訳ですね。

 治安の悪い地域にありがちな事です。


「お前ら、さっさと盗賊を倒して来い」


 門の警備員がそう発破をかけますが、誰も動きません。

 通用門から外をちらりと覗くと、無数の矢と魔法が狙っているのが見えます。

 ふっ、こういう時は。

 魔道具発動。

 聖なる光ホーリーライト、強め出力。


「がっ、目をやられた」

「俺もだ」

「見えない」


 私は通用門をくぐり抜けてゲリラの前に立ちます。


 電撃サンダー、法の裁きに従いなさい。

 魔道具を作動させました。


「あびゃびゃ」


 私が放った電撃の魔法でゲリラが気絶します。

 この魔法は魔道具化の本の最初に載っていたのです。

 『警備しましょう。貴重品には電撃の罠が最適です』と書いてありました。


 私はゲリラ達を次々に気絶させていきました。


「みんなやっちゃったのね」


 ティアの口調が呆れ気味です。

 仕事は出来る人ばかりがやっていると他の社員が育ちません。

 これは不味い事をしましたか。


「すいません、後の捕縛は任せます」


 通用門をくぐるのをためらっていた同僚が、ロープを手にゲリラへ近寄り、縄を掛けます。

 大門の所を見ると馬車が停まっていました。


「助かった。さぞ高名な冒険者とお見受けします。この後ささやか宴など如何でしょう」

「勤務中です。よろしければ差し入れを持って来て下さい」


 お得意様からの差し入れは大歓迎です。

 上司も目くじら立てないはずです。


 接待はアフターファイブにお願いします。


「あー、盗賊の身柄はキンロウ、お前の物だが、どうする?」


 ええと、どういう事でしょう。


「意味が分かりません」

「冒険者が倒した物はそいつの物だ」


 鹵獲品という訳ですか。

 もしかして奴隷にするのですか。

 おー、治外法権極まれり。

 しかし、企業戦士は日本の法律を犯す訳には参りません。


手懐けテイム


 私は盗賊に魔法を掛けました。


「わはははっ、盗賊の額に従属紋が浮かんでやがる。こいつは傑作だ。俺達を殺そうなんて考えるから罰が当たったんだ」


 同僚の一人がそう言って大笑いします。

 何かやっちゃいましたか。

 まあいいです。

 盗賊をみんなテイムしてしまいましょう。


「いやー、あんたえげつないな。奴隷にするだけじゃ飽き足らず、テイムしちまうとは」

「普通は人間をテイムなんて出来ないわよ」


 ティアの私を見る目が完徹を三日した人間を見るようです。

 よくお茶くみの女の子にそういう目をされていました。

 それほどの激務ではないのですが。


「そうだ、ゲリラの装備は皆さんに差し上げます。苦労賃です」

「おおっ、太っ腹だねぇ」


 待機室に帰ると酒とつまみが差し入れされてました。

 勤務中に酒を飲んでもいいのですか。

 服務規程はどうなっているのでしょう。


「キンロウさんも飲みなよ」

「いいえ、私はお茶で結構です」


 元ゲリラの方々が酒を飲みたそうにしています。

 あなた達は私が雇用したのです。

 雇用主の意向には従ってもらいましょう。

 酒は抜きです。


「盗賊をテイムしちゃってよかったの。やつら反省なんかしないわよ」


 ティアがそう言ってきました。


「大丈夫でしょう。これから地獄の研修をさせるつもりなので」

「あんたが地獄とか言うと、なんだか盗賊が可哀想になってくるわ」

「それほどでもないですよ。根性さえあれば卒業できます」


 地獄の研修は懐かしいですね。

 どんなメニューで行きましょうか。

 ラジオ体操から始まって、挨拶の練習、街の中での歌。

 ここならではの薬草採取や墓場の警備。

 門の警備も入れておきましょうか。

 本を読ませてレポート1000枚の作成も良いですね。

 何か商品を持たせて飛び込み営業させるのもいいでしょう。

 少しワクワクします。

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