第4話 地域住民と和解が成立
「すいません、今から泊まりたいのですが」
宿の女将さんに話掛けました。
「朝、泊まるという事は夜勤かい」
「ええ、墓場の警備でした」
「ちょっと待ちな。清掃が済んでいるのは3部屋だね。泊まれるよ。それにしても目のクマが凄いね。体は大事にしなよ」
「良いんですよ。仕事はきついものです。歯を食いしばってやっていれば、そのうち慣れます」
「まあ、宿屋の仕事も似たようなものさ。年中無休で24時間」
「今の仕事を首になったら、次は宿屋に就職します」
「そうなったらうちに来な。あんたみたいな頑張り屋がいると助かるからね」
「まあ、その時は」
部屋の鍵を貰ってベッドに横たわると、沈み込むような感覚があって意識が落ちました。
「くあー、だるくて快調な目覚めです。実に良い」
時計を見ると朝の10時の出社に間に合いそうです。
宿の女将さんに鍵を返します。
「あんた、4時間ぐらいしか寝てないけどもう行くのかい」
「ええ、2度寝すると頭が痛くなるもので」
「そうかい。気を付けて行って来な」
「失礼します」
冒険者ギルドの前に来る。
タイムカードと念じて出勤を記録する。
おー、みなぎるパワー。
まるで、高い栄養ドリンクを飲んだみたいです。
金が掛からなくて実にいいですね。
今日も薬草採取しますか。
昨日より高い依頼を手に取ります。
受付でマニュアルをチェック。
準備は整いました。
社食で朝飯をゲット。
食べながら移動します。
森に行くとやはり緑の人に囲まれました。
全身に緑の塗料を塗って健康被害はないのでしょうか。
植物由来の成分なのかも知れませんね。
やはり遠巻きにして囲まれます。
おや、今日は矢は撃ってこないようです。
握りこぶしほどの石を持っています。
キャッチボール勝負ですか。
睡眠学習かナノマシンの効果かは分かりませんが、負ける気がしませんね。
一斉に石を投げてきます。
見えますね。
最初に到達する石をキャッチ。
それを石に当てて弾きます。
ふむ、一つの石で一つを弾くのでは効率が悪い。
連鎖を狙いましょうか。
おお、ビデオゲームみたいで楽しいですね。
次々に石の軌道が変わります。
360度対応できるのはナノマシンですかね。
緑の人達の目に怯えの表情が見えます。
おっさんは怖くないですよ。
企業戦士ですが、生き物は殺しません。
まれにライバル企業を倒産に追い込んでしまう事はありますが。
悲しい現実ですね。
何やら森の奥からふごふごという鼻息が聞こえて象ほどの猪が現れました。
おや、緑の人が跳ね飛ばされて食われました。
猪も大きくなると人を食うんですね。
いけません。
害獣は駆除しないと。
緑の人が襲われているのだから、人命救助で猪を退治しても、野生動物を勝手に駆除したとは言われないですよね。
「ナノマシンよ燃え上れ。社畜正拳突き」
鼻づらに正拳突きをお見舞いしてやりました。
ふぎゃーと声を上げて猪の鼻づらが陥没してしまいました。
倒れた猪を見て緑の人が何か言いたそうです。
おや、よだれを垂らしてますね。
「どうぞお上がり」
緑の人が一斉に猪に群がります。
生で食ってお腹を壊さないのでしょうか。
緑の人もナノマシンの恩得を得ているのかも知れません。
猪は骨と皮を残して緑の人の腹に収まりました。
ふむ、牙と皮ですか。
良い土産が出来ました。
緑の人が赤い透き通った5センチほどの石を差し出してきました。
ふむ、お礼ですか。
律儀ですね。
頂いておきます。
さて薬草探しを再開しますか。
それから緑の人は攻撃してこなくなりました。
和解が成立したんですね。
やっぱり信用とか誠意とか大事ですね。
猪の牙と皮を持って帰ります。
生臭いが、過去に3Kの職場は体験してます。
このくらい屁でもないです。
門をくぐる時に守衛さん達に驚愕の目で見られました。
やっぱり野生動物の殺害は禁止なのでしょうか。
状況を誠意を持って説明すれば、お咎めはないと思います。
帰社するとやはり同僚に驚愕の目で見られます。
やっちゃいましたかね。
首も覚悟しておきましょう。
首になったら宿屋で社畜ですね。
まずは薬草の清算です。
「銀貨1枚と銅貨52枚になります」
不味い、牙と皮がカウンターに載りません。
「すいません、載らないのですが」
「ちょっと、大きい素材は門の近くの買取所に持って行ってよ」
「なにぶん、二日目なもので」
ペコペコと頭を下げます。
謝罪は社畜の基本です。
「ところで肉はどうしたの」
「原住民の方々が食べてしまわれました」
「森の民が食べたって言うの。嘘だー。採食主義のはずよ」
「いえ緑の人達が」
「エルフは確かに緑の衣装を着ているけど。ダークエルフかしら。まあ良いわ」
「これって買い取りできますか」
私は赤い石をカウンターに載せました。
受付のお嬢さんの目が大きく開きました。
原住民のお宝ですかね。
まさか国宝クラス。
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