第3話 墓場の初仕事
腹ごしらえが終わりましたので、墓場の警備に出かけました。
管理小屋の扉をノックします。
出て来た男は私を見て盛大に顔をしかめました。
悪印象を与えてしまったようです。
何がいけないのでしょう。
「あんた、武器は?」
おお、仕事道具を忘れて来たと思われたようです。
仕事道具は後々手に入れたいですね。
警備というにはこん棒辺りが妥当でしょうか。
「持ってません」
嘘偽りなく答えました。
誠実に行かないと信頼関係が築けません。
「参ったね。魔法は使えるかい」
ええと、プログラムの事でしょうか。
たしかプログラムを組む人の事を魔法使いと呼んでいた気がします。
プログラムは出来ません。
「使えません。ですが覚えます」
簡単なプログラムぐらい残業すればこなせるはずです。
「そうかい。じゃ簡単なのを
暖かい光が出ました。
ナノマシンと音声認識という奴ですか。
起動のパスワードが分かりました。
ビバ、催眠学習。
「復唱します。
光が出ました。
なるほど簡単ですね。
パスワードをメモしておきたいところです。
セキュリティの関係で本当はいけない事だとは思っていますが、忘れるので仕方ありません。
今回のパスワードを何回も頭の中で復唱して忘れないようにします。
魔法というのはナノマシンを起動する事を示すようです。
業界の言葉に早く慣れないと。
「筋が良いねえ。アンデッドが出たらそれを照らしな。浄化されるから」
「分かりました」
全然分かってないけど分かりました。
なんとなく聞いたら悪印象が更に悪化するような気がしたのです。
習うより慣れろです。
墓場に一人で立ちます。
かび臭いような生臭いような臭いが立ち込めます。
濡れた土のような臭いもします。
まあ墓場ですからね。
海外だと土葬が一般的だと聞きます。
ここもそうなのでしょう。
深く埋めないで浅いのかもしれません。
暇なお仕事です。
待機時間が長い仕事もばっちこいです。
とつぜん土がむくむくと盛り上がって骸骨が立ち上がりました。
これがアンデッド。
どんな仕組みなんでしょう。
きっとナノマシンが骨に残留して動かしているのでしょう。
「
光に照らされた骸骨はしばらくその場でもがき消えて行きました。
ナノマシンが空気に溶けたのでしょう。
この職場は思ったよりハイテクノロジーです。
おっさんはついて行けるか心配です。
空が明るくなり墓場の警備が終わりました。
4時ぐらいですかね。
全然、疲れてませんね。
まだ働けそうです。
ですが、無理はしないでおきます。
まだ初日です。
「アンデッドは出たかい」
「ええ、一つ」
「瘴気が濃くなってるね。参ったものだ。近々大物が出現するかもしれないな」
「そうですね」
管理人が言っている事が分からないですが、相づちを打ちます。
瘴気というのは残留ナノマシンの事でしょう。
それの濃度が増しているのだと思われます。
その影響で巨大なアンデッドが出現すると思っておけば間違いないはず。
これで解釈はあっていると思います。
おっさんは右往左往する新人ではないのです。
考えて的確な行動を取れるのです。
「とにかくご苦労様」
依頼書にサインをしてもらいます。
「お疲れ様です。では」
帰社してカウンターで銀貨2枚を貰います。
「この会社の仮眠室はどこでしょう」
「会社って?」
「冒険者ギルドです」
「ギルドの仮眠室はないわね。宿の手配なら出来るけど」
「銀貨2枚で足りますか?」
「ええ足りるわよ」
宿を手配して貰った。
冒険者ギルドを出る時に退社のタイムカードを押します。
「うわっ、急に夜勤明けの体になった」
体に入っていた何かが抜けました。
これはナノマシンに違いありません。
睡眠学習だと思っていた事の大半はナノマシンだったのかも知れません。
タイムカードとナノマシンが連動しているようです。
特典は何もないと言っていたのに。
もしかして他の社員は常時ナノマシンが働いているのかも知れません。
そうすると24時間、何日でも働けます。
そうだ。
そうに違いない。
実に私好みの企業です。
今は眠くてだるいが、何時もの事です。
これが労働後というもの。
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