第8話 異世界4



「うーん……」




 夜回りから帰った二人は子ども部屋で寝る支度をします。成長した二人に個室が与えられるほどの裕福な家庭ではありませんでした。


 寝る前にデックは、夜回りで上がってしまったコニーのレベルを下げてやることにしました。


 コニーの『レベル下げ』を手伝った後、デックは自分がコニーの背中にかざしていた右手を眺めて首をかしげます。




「どうしたの、デック」




 子ども部屋の床に散らばった衣類をかき集めながらコニーはデックと鏡合わせになるように首をかしげます。




「俺、何でこんな力を持ってるんだろうなーってさ」


「えっ?」


「いや、ありえないだろ。レベルを下げる力なんてさ。コニーがレベルが上がり過ぎちゃう病気になるのを見越して、神様が授けてくれたのかなー、なんて」




 デックは軽く笑いながら、おどけて言います。


 対照的にコニーは真剣な表情になります。




「何言ってるの、デック。二人でこの世界に転生してきた時に自分で決めた能力でしょう。私だってレベルが上がりすぎる病気じゃなくて、こうなるように女神さまに頼んだんだから」


「転生ねぇ。コニーさ、いい加減そんな妄想やめようぜ。子どもの頃はさ、自分たちは特別なんだって思いたくてそんな作り話もしたけれど。もう俺たち17歳なんだし」


「デック、本気で言ってる? 私たちは元の世界では2歳離れた兄妹だったのよ。デックのおかげでまた二人一緒に生まれ変わることができたんじゃない」


「はいはい、そういう設定だったな、たしか」


「設定じゃなくて、ああもう! ……それじゃあ、これでどう?」




 飄々とコニーの言葉を受け流すデックに対して、コニーは元の世界の言葉、日本語で語りかけます。






『デック。いいえ、才共お兄ちゃん。私の事、依子のこと忘れちゃったの?』




 真剣なコニーの表情にデックは気圧されます。


 久しぶりに聞いた日本語に、記憶の扉が開いたのでしょうか。


 観念したように一呼吸置くと、コニーに合わせて日本語で返します。




『やめてくれよ。あれは、二人で見た長い夢だったんだよ。俺たちはもう17歳。前の世界より長生きしている。俺にとってはこっちの世界がホンモノで、本当の俺は田舎の村に生まれた平凡な宿屋の息子なんだ』




 それだけ言うと、デックはおどけた表情を取り繕いながら、子ども部屋に二つ並んだベッドのうちの片方に部屋着のまま倒れ込みます。


 一方的に会話を打ち切られてしまったコニーはデックの背中を寂しそうに見つめながら、脱ぎ捨てた部屋着もほったらかしにして自分のベッドの毛布にくるまります。




「デックのバカ……」




 拗ねたコニーの独り言を、デックは背中で受け止めていました。






「うーん……」




 夜回りから帰った二人は子ども部屋で寝る支度をします。成長した二人に個室が与えられるほどの裕福な家庭ではありませんでした。


 寝る前にデックは、夜回りで上がってしまったコニーのレベルを下げてやることにしました。


 コニーの『レベル下げ』を手伝った後、デックは自分がコニーの背中にかざしていた右手を眺めて首をかしげます。




「どうしたの、デック」




 子ども部屋の床に散らばった衣類をかき集めながらコニーはデックと鏡合わせになるように首をかしげます。




「俺、何でこんな力を持ってるんだろうなーってさ」


「えっ?」


「いや、ありえないだろ。レベルを下げる力なんてさ。コニーがレベルが上がり過ぎちゃう病気になるのを見越して、神様が授けてくれたのかなー、なんて」




 デックは軽く笑いながら、おどけて言います。


 対照的にコニーは真剣な表情になります。




「何言ってるの、デック。二人でこの世界に転生してきた時に自分で決めた能力でしょう。私だってレベルが上がりすぎる病気じゃなくて、こうなるように女神さまに頼んだんだから」


「転生ねぇ。コニーさ、いい加減そんな妄想やめようぜ。子どもの頃はさ、自分たちは特別なんだって思いたくてそんな作り話もしたけれど。もう俺たち17歳なんだし」


「デック、本気で言ってる? 私たちは元の世界では2歳離れた兄妹だったのよ。デックのおかげでまた二人一緒に生まれ変わることができたんじゃない」


「はいはい、そういう設定だったな、たしか」


「設定じゃなくて、ああもう! ……それじゃあ、これでどう?」




 飄々とコニーの言葉を受け流すデックに対して、コニーは元の世界の言葉、日本語で語りかけます。






『デック。いいえ、才共お兄ちゃん。私の事、依子のこと忘れちゃったの?』




 真剣なコニーの表情にデックは気圧されます。


 久しぶりに聞いた日本語に、記憶の扉が開いたのでしょうか。


 観念したように一呼吸置くと、コニーに合わせて日本語で返します。




『やめてくれよ。あれは、二人で見た長い夢だったんだよ。俺たちはもう17歳。前の世界より長生きしている。俺にとってはこっちの世界がホンモノで、本当の俺は田舎の村に生まれた平凡な宿屋の息子なんだ』




 それだけ言うと、デックはおどけた表情を取り繕いながら、子ども部屋に二つ並んだベッドのうちの片方に部屋着のまま倒れ込みます。


 一方的に会話を打ち切られてしまったコニーはデックの背中を寂しそうに見つめながら、脱ぎ捨てた部屋着もほったらかしにして自分のベッドの毛布にくるまります。




「デックのバカ……」




 拗ねたコニーの独り言を、デックは背中で受け止めていました。






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