第7話 異世界3



 散らかった店内の片付けも終わり、コニーとデックは身支度をして店を出ます。


 夜の村はとても静かです。


 コニーの甲冑がカチャカチャなる音と、デックのローブの衣擦れの音が闇に吸い込まれていきます。




 父親に懐いて育ったコニーはいつしか剣術を学び、戦士の心得を授かりました。


 母親に懐いて育ったデックはいつしか魔術を学び、魔法使いの心得を授かりました。




 守り手の少ない村の周囲に蠢くモンスターを夜な夜な狩り、村人たちの安全を守る役目を負っているのは今や彼らの両親ではなくコニーとデックの二人なのです。


 村を一歩出れば周囲の空気も変わり、魔物の気配が漂い始めます。


 魔物たちは魔王のしもべであり、村から出た人々を襲います。


 何故か村の中には入ってきません。


 よほど魔王軍の戒律が厳しいのでしょう。


 厳しい規律による世界支配、というお題目を掲げる魔王軍だけに、魔物の教育がこんな辺境の地まで隅々に行きわたっているようです。




 コニーとデックは村の周囲をぐるぐると探索しました。


 このあたりの魔物はグリーン・スライムとバッド・バットのみです。倒しても経験値が1とか2しか入らないような、超低級の魔物です。


 コニーの攻撃1回で簡単に倒せてしまいます。


 デックは魔力の消費がもったいなので杖で殴りますが、それでも1撃で倒せてしまいます。


 出会って、叩いて、経験値とゼニーを得るだけの単調な作業を、コニーとデックは一晩中つづけました。


 明け方、空が白んで日が昇る前に二人は探索を中断し、村の自宅に帰って休みました。








 もうかれこれ10年間ぐらい、二人は村の外でグリーン・スライムとバッド・バットだけを相手に戦い続けています。


 それでも小さな経験値の積み重ねは長い年月とともにふくれあがります。


 デックはもうとっくにレベル99にまで成長していました。グリーン・スライムとバッド・バットだけで。


 レベル99というと、もうそれ以上は強くなりえないという人間の限界そのものです。


 もうグリーン・スライムをどれだけ倒しても成長しないレベルに達してしまったのです。




 一方のコニーは、レベル389です。この世界の人間の成長限界であるレベル99の、およそ4倍は強いという計算になります。


 この世界の住人はどれだけ頑張ってもレベル99以上にはなれません。


 それならば何故コニーはこんな高いレベルに達してしまったのでしょうか。




 それはコニーが、異世界から転生してきた住人であり、その際に授かった特殊な力によるものでした。


 コニーが転生の際に授かった力。それは、『レベル限界を突破する能力』です。


 この力のおかげでコニーはレベル限界であった99を超えても成長し続けることができるのです。




 コニーが転生するときに気がかりだったのは、レベルには上限があっていつしか終わりが来てしまうという事でした。


 そこで、コニーはレベルの限界を突破して成長することで、いつまでもレベルアップを楽しみ続けることにしたのでした。


 しかし、その能力のせいで困ったことがありました。


 それは日常生活を送るにはレベル99以上だと力が強すぎて不便という事です。


 ちょっと力を込めただけで、鍵のかかったドアノブをねじ切ってしまったり、くしゃみ1つで竜巻を起こしてしまったりします。




 そこで重要になるのがデックの力です。


 デックも異世界からの転生者です。


 転生の時に授かった能力は、『レベルを下げる能力』です。


 デックもコニー同様に、レベルには上限があっていつしか終わりが来てしまうという事を気にかけていました。


 そこで転生の際にデックが思いついたのは、上がりすぎたレベルを下げることでまた何度でもレベルアップを楽しみ続けるという事でした。




 今ではデックはもっぱら、レベルが上がりすぎて日常生活に支障をきたすコニーのレベルを下げてやることをほぼ日課にしています。


 何せ、村の外の夜回りをしているだけでコニーのレベルはどんどん上がってしまうのですから。


 とても相性がいい能力を授かることができたとコニーは喜んでいます。


 ですが、デックの方は、どうも腑に落ちていないようです。


 何故なら……。




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