第6話 異世界2



 コニーが蹴った小石は音速を超えて飛び、赤熱化して周囲の空気を焦がしながら蒸発し、一筋の光となって遠く離れた村の裏山の一角を抉り取り、さらに飛んで夜空に消えていきました。




 それに驚いた魔王軍哨戒部隊はファーストーン国全域に勇者警戒警報を発令。


 魔王軍航空部隊がスクランブル発進。魔王軍魔力解析班は正体不明の光線の残留魔力を調査。


 報告を聞いた魔王軍ファーストストーン方面最高責任者、ポイズン・スライム司令官は「またか……」と呟きため息をつきます。








「コニー、どうかした?」




 食堂の客が全て帰り、デックは店内の掃除を始めています。




「べっつにー?」




 コニーも箒を取り、掃除を手伝います。


 デックの方はせっせと汗を流しながらなのに対し、コニーの方は恐る恐る床に箒をつけてなぞるように掃いています。




「ならいいけど。……コニーさあ、好きな奴いる?」


「ぶっ……!」




 デックの突然の軽口に、コニーは思わず息を噴き出してしまいます。


 突風が巻き起こり、店内のテーブルを全てひっくり返し、天井のシーリングファンが唸りをあげて高速回転します。




「あっはっは、いるのか。図星だな?」




 局所的な竜巻が発生したかのような店内ですが、慣れっこになっているのかデックは平然とコニーを指さして笑います。


 コニーは顔を真っ赤にしてうつむき、プルプルと震えています。


 この程度の事では壊れない頑丈なテーブルを元の位置に戻しながら、デックはそのまま掃除の続きを始めます。




「好きな奴いるなら早いとこ結婚でもしないと、またさっきみたいにオッサンにからかわれるぞ~」


「なんっ、ですって!」




 ボグシャア!




 コニーが手に持っていた箒を振り下ろして近くのテーブルに八つ当たりしました。


 とても力が入っていたようで、テーブルは真っ二つに割れてしまいました。




「ああっ、オリハルコンの丸テーブルが!」




 コニーは修繕費用の事を考えて頭を抱えます。


 伝説級のダンジョンでようやく手に入れることのできるという最強の金属を手に入れるために、いったいどれ程のお金が必要なのか……考えただけで頭が痛くなります。




「おいおい、コニー……お前また、レベル上がりすぎてるんじゃないのか?」


「あっ、ご、ごめん……」




 さすがにコニーも、世界暗黒竜のジェノサイド・ブレスさえ防げるというオリハルコンの丸テーブルを壊してしまったことに悪気を感じているようです。




「仕方ねえな。ほら、こっち来いよ」


「うん、お願い。ごめんね、お兄ちゃん」




 コニーはエプロンを外してスルリと素朴なワンピースを脱ぎ、なるべく素肌が露出する格好になります。


 転がっていた椅子を起こして慎重に座ると、デックの方に背中を向けます。


 デックがコニーの背中に手をかざすと、デックの手のひらの前に現れた青白い光の魔法陣がコニーの体の表面から光の粒子のようなものを吸い取っていきます。




「んっ、ふ……ああっ」




 コニーの口から思わず声が漏れます。


 身悶えるコニーは少しずつ下着もずらして、全身から光の粒が出るようにしていきます。


 デックの魔法陣はコニーの体から出る光を吸い込んで、次第に赤く燃え盛るような色になっていきます。




「コニー、どうだ?」


「んぅ……おにいちゃぁん……もうちょっと、もうちょっとだけ」


「わかった。じっとしてろよ」




 苦しげなコニーの声を聴きながら、デックは手のひらをさらにコニーの背中に近づけます。


 光の吸収スピードが早くなり、コニーの声も甲高くなっていきます。




「んんぅーーーー……っ!」




 ビクン!




 コニーが大きく背中を仰け反らせた瞬間、デックは慌てて手をひっこめます。




「はぁ、はぁ。もう良いみたい。ありがとう、お兄ちゃん」


「あ、あぁ」




 うっすらと額に汗を浮かべたコニーは大きく呼吸をしながら、のろのろと床に落ちた下着を拾います。


 デックは手を握り、赤く輝く魔法陣を粉々に砕きました。




 これは誰にも言えない二人だけの秘密です。


 コニーは時おりこうやってデックに力を吸い取ってもらわないと、際限なく力があがってしまう事があるのでした。




 デックがぼんやりしていると、コニーはすっかり脱いだ服を身に着けており、そそくさと掃除の続きを始めていました。


 デックは自分の手のひらを眺めるのをやめて、コニーに続いて掃除に取り掛かるのでした。




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