第4話 転生の間2
闇がどこまでも広がっています。
その中に、ぽつんと小さな光がありました。
お座布団です。
その上に、ブラウスと赤い吊りスカートの女の子がちょこんとお行儀よく正座して座っていました。
その正面のちょっと先に、はるか高い所から一条の光が差し込んできました。
光の中を、誰かがゆっくりと降りてきます。
女神さまと才共くんです。
女神さまと手をつないでいた才共くんは、地面に降り立つなり依子ちゃんの所へ走っていきます。
「依子!」
「お兄ちゃん……」
依子ちゃんも立ち上がって才共くんを迎え、ひしと正面から抱き合いました。
「ごめんな、依子。お兄ちゃんのせいで」
「ううん、いいの。お兄ちゃんが帰ってきてくれたら、それでいいの」
才共くんと依子ちゃんはひとしきり互いの存在を認め合うと、ふたりを見守る女神さまの方に向き直ります。
「お兄ちゃん、ここ、天国? あの人、天使?」
依子ちゃんが首を傾げながら才共くんに尋ねます。
才共くんも一緒になって首をかしげているので、女神さまは改めて二人に自己紹介をします。
「初めまして、依子ちゃん。私は運命のめが」
「あのおばちゃんは、女神さまだよ!」
「すごい! めがみさま!」
才共くんが女神さまの言葉を遮って、依子ちゃんに説明します。
依子ちゃんは何故か深々と土下座してしまいます。
ええと、どうしたらいいのでしょうこの二人。
「コホン。そうです、おねえちゃんは運命の女神さまなのですよ」
「えっとね、女神さまはね、ゲームの世界に連れて行ってくれるんだよ!」
「すごい! ハハァーっ!」
才共くんと依子ちゃんは一緒になってカラカラと笑いながら土下座のふりをします。
そうでした。この二人はお母さんが生きていた頃はとてもやんちゃでいつもふざけあっている仲の良い兄妹なのでした。
よくお母さんにはしゃぎ過ぎで叱られていましたね。
でも、子どもたちはこれぐらい楽しく笑いあっている方が良いのだと思います。
女神さまは二人の元にしゃがみ込んで、一緒に地面に座りました。
依子ちゃんが女神さまの後ろから抱き付きます。
才共くんは女神さまの太ももを枕にするように寝転がります。
そうしながら、女神さまは二人にこれからの事を少しずつ説明していきます。
「新しい世界では、もういちど赤ちゃんからやり直すことになります。まずはその世界がどんな所なのかを学んでください。
その世界の言葉や、知識などをたくさん覚えなくてはなりません。
二人一緒に男女の双子として生まれるので、新しい世界では同い年になってしまいますね。
でも、2年間ひとりぼっちでいるよりは良いかと思うのです。こればかりは、すみません。
ここまでは、よろしいですか?」
「うん」
「だいじょうぶ」
「勇者として新しい世界に行ってもらう二人には、ひとつだけ特別な力が与えられます。
それは、世界のルールも超えるぐらいのすごい力です。
もう才共くんは自分が欲しい力を決めています。
依子ちゃん、あなたはどんな力を持って新しい世界に転生したいですか?」
女神さまの説明を要約するとこんな感じです。
実際にはちゃんと分かってもらうまでたくさん説明をしました。
「うーん。お兄ちゃんはどんな力をもらったの?」
「ひみつー」
「えー、そんなずるーい! じゃあ依子も!」
依子ちゃんは女神さまの耳元に口を近づけ、手で覆い、
「あのねー、ごしょごしょごしょ」
「ふんふん。なるほど。いいでしょう。あなたにその力を与えます」
「やったー!」
女神さまは依子ちゃんの額に指をあててくるくるとなぞります。
依子ちゃんの額に青白く輝く魔法陣が現れたと思うと、それはスッと依子ちゃんの頭の中に入っていきました。
「はい、これであなたは力を授かりました。新しい世界の事、よろしく頼みますよ。可愛い勇者ちゃん」
「はーい!」
女神さまは立ち上がり、改めて二人に向き直ります。
二人も立ち上がって女神さまを見上げます。
二人はしっかりと手をつないでいました。
「それでは、行ってらっしゃい。才共くん、依子ちゃん」
二人の熱い眼差しを受けながら、女神さまは両手を広げます。
二人の足元に青白く光る魔法陣が現れ、二人を暗闇の空のはるか高くへと押し上げていきました。
「いってきまーす!」
「さようならーっ! お母さ……じゃなかった、女神さまーっ!」
ぶんぶんと手を振る二人がどんどん空へのぼり、見えなくなっていきました。
「ずっと見ていますよ、あなたたちの事。これからもずっと……」
私は、……いえ、女神さまは二人の姿をずっと見送っていました。
ずっと、ずっと、見守っています。
やがて二人の魂は、新しい世界のある夫婦のもとへ宿りました。
さあ、新しい冒険の始まりですよ。
あなたも一緒に、見守ってくださいますか?
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