部屋の外が静かになったので、ドアに聞き耳を立てる。気配を感じられない──おもいきって鍵を開けた。廊下に出たわたしは、隣の部屋へ隠れる事にする。



     *



 寒さで目が覚める。どうやら、疲れ果てていつの間にか眠ってしまっていたようだ。

 下へ降りようと廊下に出ると、娘の部屋の前に包丁が落ちていた。

 一気に血の気が引く。

 娘は…………娘は、本気でわたしを殺すつもりらしい。包丁を拾い上げ、力なく階段を降りた。



 一階へ降りると、玄関の三和土たたきうずくまっていた愛犬のモモが気づき、わたしを吠えたて始める。

 元々、モモは自分にはなついていなかったのに加えて、血のにおいを嗅いで興奮しているのかもしれない。

 小さい身体からだながらも、歯を剥き出しにして更に吠えたてるので、わたしは静かにするよう一応なだめてはみたが、モモは一向に大人しくならなかった。

 娘に気づかれると焦りはじめたその時、階段を降りてくる足音が聞こえてきた。

 玄関からの脱出はあきらめ、慌てて自室へと逃げ込む。モモはもう吠えるのを止めていた。


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