5
部屋へと戻り、携帯電話を取って急いでクローゼットに隠れる。恐怖と緊張のためか、指が震えて液晶画面を上手く押せず反応もしない。
そうこうしている内に、クローゼットが勢いよく開かれた。怯えて見上げれば、目の前には包丁を片手に持つ娘が立っていた。
声にならない声で、愛娘に命乞いをする。
しかし、聞き入れられずに、髪を掴まれて部屋の中央へと引きずり出された。すると今度は、倒れ込むわたしの頭を娘は容赦なく踏みつける。強烈な頭と顎の痛みに襲われ、
ああ……このままわたしは、殺されるんだ。
死期を悟ったその瞬間、新しい夫となるはずだった男の笑顔と声が、脳裏を
──生きたい。
最後の力を振り絞って華奢な足を跳ねのけると、わたしは腰に隠し持っていた包丁で、愛する娘の胸もとを深く突き刺した。
われに返って包丁を慌てて引き抜く。勢いよく吹き出した血飛沫が、わたしの顔を濡らす。
大きく目を見開いたまま、娘は後ろへ
「ごめんね……ごめんね……」
すぐに包丁を放して娘に近づき、血塗られた手で娘の綺麗な寝顔を撫でながら声をかけるが、目は閉じられたままで身体も動かない。
愛犬のモモが駆け寄って来て娘の頬を舐め始めた。きっと、起こそうとしているに違いない。目を覚ましてくれと強く願ったが、愛する娘の目が開くことは、永遠にもうなかった。
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