○がつにち本日ほんじつ晴天せいてんなり。下界げかいからは騒音そうおん相変あいかわらずこえてくる。生活音せいかつおんというのがただしいのかもしれないが、わたしからしてみれば、異音いおん……つまり、ノイズ以外いがい何物なにものでもない。


 今日きょう下界げかい愚民ぐみんどもは、じつにくだらない1日いちにちごすのだろう。明日あしたもくだらない1日いちにちごすはずだ。そんなかれらの生涯しょうがいは、確実かくじつに、くだらないだろう。寛大かんだいわたしは、すこしばかり同情どうじょうをする。だが、誤解ごかいはしないでくれ。わたしはおまえたちが、大嫌だいきらいだ。




 おひめさまはボールペンをはしらせえると、かどすこよごれたハードカバーの鍵付かぎつきの日記帳にっきちょうじ、つくえしにしまいました。そのしにもかぎをかけると、つづいて勉強机べんきょうづくえおな色彩しきさい本棚ほんだなへとあゆります。


 おひめさまは、そのなかから海外かいがい童話どうわがたくさんかれている古典こてん文学ぶんがくまよわずりました。おひめさまは、古典こてん文学ぶんがく大好だいすきでした。なぜなら古典こてんとは、時代じだい駆逐くちくされずにのこった良質りょうしつ作品さくひんだからです。


 おひめさまは、もう何百回なんびゃっかいみましたが、きはしません。ただ、残念ざんねんなことに、新鮮味しんせんみかんじられませんでした。自分じぶんも、なにかしらいてみようとかんがえてみたことは何度なんどもありましたが、所詮しょせん自分じぶんものです。不毛ふもう作業さぎょうかんじられたので、実現じつげんはしていませんでした。



 どれだけの時間じかんったのでしょう。がつけばおひめさまは、おなかいていました。いつもなら定刻ていこくになると、おかあさんがドアをノックしてこえをかけ、朝食ちょうしょくを──大抵たいてい、おひめさまはおひるごろにべるので、ただしくはブランチですが──ドアのまえいていくのに、きょうはそれがありませんでした。


 6畳間ろくじょうまのおひめさまは少々しょうしょう不満ふまんかんじましたが、とても寛大かんだいなおかたなので、っていた海外かいがい童話どうわがたくさんかれている古典こてん文学ぶんがく黙々もくもくつづけました。


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