他人を炎上させることができる能力者、新宮寺カオリ。炎上といっても物理的に火をつけるのではない。彼女の力はインターネット上で他人を炎上させて社会的な死に至らしめるのだ。その能力を駆使して、事故で大やけどを負った妹の復讐を果たしたカオリだが、その彼女の前に自分と同じく特別な能力を持つ男が現れて……。
他人を炎上させるという変わり種な能力に目が惹かれてしまうが、本作でより特徴的なのは二転三転するストーリー展開。全4話構成の短編で決して長くはないのだが、その短い間に、登場人物の立ち位置が目まぐるしく変わっていき、単純な復讐に見えた事件には意外な真相が隠されている。
異能力者同士の会話を中心に物語は進んでいくのだが、互いの正体を探り合おうと不穏な空気を漂わせつつも、その会話を焼肉屋で行っているというのが少しコミカルで、またホルモンや肉が焼ける様子を見ながら焼死した人間の話をする不謹慎さも独特の味を出している。
設定面でもストーリー面でもツイストの効いた見事な短編だ。
(「カクヨムリベンジャーズ!」4選/文=柿崎 憲)
物理的ではなく観念的に(=比喩または俗語的な意味で)、意図した目標を〝炎上〟させる能力を持った少女、カオリの物語。
いわゆる「異能」、超常的な特殊能力を備えた人の活躍を描いた短編です。
何が魅力かってまずその能力そのものの特性がすごい。上記の〝炎上〟からして独特で、それがただ風変わりというだけでなく、きっちり物語の面白みとして使い切られているところが最高でした。
この〝炎上〟でなければ成り立たなかった物語でありキャラクターであると、はっきり実感できるのが本当に楽しい。
読み進めるごとに転遷していく、この展開の振れ幅のようなものが好きです。
あるいはそのように緻密に練られた筋というか、とにかく先が気になってぐいぐい読まされてしまう。
いわゆる「異能バトル」、とひと口にそう言い切ってしまうと語弊があるのですけれど、それと同種の伯仲の攻防を、画的にド派手なアクションなしに実現してしまう〝からこそ〟の面白さ。
一見変わった異能を、でも存分に物語として作用させた、非常に読み応えのある物語でした。