第48話

「ああ、そうか」

 何かを納得したらしい警備員。俺は刀を握ろうとした手を止める。

「パレードならこっちだよ」

「ええと」

「ここは迷いやすいからね。よくパレードを見に来た子が迷子になっちゃうんだよ」

「そう。そうなんですよ」


 そういうことにしておこう。正直に『異教徒だから追われてここにテント張ってゆるいキャンプでもしようと思ってました』とか言ったら絶対しょっぴかれる。

「それならこっちだよ。ついてきて」

 親切にも案内してくれるらしい。誰も興味ないのに。路地裏から出ると、警備員の同僚らしい武装した方々が五人ほどいらっしゃった。これバトルになったら詰んでたかもしれん。危ない危ない。


「あー」

「今は黙って合わせろ」

 何か言いたげなミツルに耳打ちする。

「今回の選任勇者は期待の新人なんですよ」

 案内する警備員さんが気さくに話しかけてくる。この陽キャ特有の距離感なんかいや。


「あの六英雄のご子息で、教団が最も推してるんです。今回の魔王を討伐する日も近いでしょう」

「なるほどー」

 すげえ薄っぺらい相槌をしつつ、脳をフル回転。今回ってことは、魔王って代替わりするのだろうか。結局魔王をその場で倒しても第二、第三の……ってパターンか。とすれば、そのたびに勇者なるものは現れるわけか。パレードってのはそれの壮行会みたいなもんか。


 もう少し思考を広げてみよう。

 勇者と魔王はその時々で代替わりを繰り返す。勇者は教団が指定する。教団が指定する勇者が魔王を討伐する。このサイクル、システムとは……

「いやーなんというか、俺もあやかりたいもんですよー」

 探りを入れてみる。

「俺もああいう勇者になりたいなーみたいな」


「教団直属の選任勇者は一般勇者と違ってなろうとしてなれるものではありませんからね」

 そこらへんは馬車のおっさんの言っていた、名前だけのお飾りの称号である勇者とは根本的に違うのだろう。トモノヒ教が後ろ盾になっている勇者、その中でも教団が直接管理している選りすぐりの勇者。勇者オブ勇者。信頼と実績のトモノヒ教ブランド。


「まず教徒の中でも優秀な層が勇者候補生として教団の目に留まり、その中でもさらに一握りが選任勇者として教団の信任を得ることになります」

「選ばれなかったらどうなるんです?」

「だいたいは教団の職員ですね。かくいう私たちもその選定に漏れた者たちでして」

 苦笑する警備兵に、周りの同僚もわずかに声をもらし肩をゆらす。勇者のなりそこないは一般兵として再利用か。


「優れた血筋・家系。恵まれた才能・環境。弛まぬ努力・精神。そうした諸々がすべて結集した人物が教団直属の選任勇者となれるのです」

「アータ全部ないじゃん」

 糞ギャルのつぶやきに俺は反論できなかった。とりあえず足元の石を蹴る。

「さぞかし立派な人物なんでしょうね」

 皮肉交じりで称賛する。嫉妬だ。

「ええ。歳はあなたたちと同じくらいと伺っております。……つきましたよ」

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