第27話

「おーい」

 感動と達成感に震える俺を現実に引き戻す声。科学者のご帰還だ。

「収穫はどうだい」

「そこそこです。もう暗くなったんで帰ります」

 そしてこっちもご帰還だ。


「そうだねえ。ランプでも手元はよく見えないし」

「LEDあれば違うんだけどねー」

「はて?」

 蛍光灯すっ飛ばすなよ。俺はとりあえず掘り当てた未鑑定品を示す。


「おお、なかなかやるじゃないか。ここでこのまま発掘調査の手伝いをやらないかい?」

「残念ながら先を急ぐ旅ですので」

「そんな急いでたか?」

 お前は余計なことを言わないと死ぬ病なのか。

 俺はそっとミツルの耳に口を寄せる。


「このまま土いじりをして過ごしたいのかよ」

「え。やだよ。ネイルが汚くなるじゃん。爪の間に土入るし」

「じゃあおとなしく話を合わせてくれよ頼むから」

 ギャルは沈んでいく陽を見てハッとなる。

「そうか。アータ意外と頭いいんだな」

 意外は余計だしお前が馬鹿なだけだ。


 そう思っても口に出さないのが俺とこいつの知能の違いであろう。

 後片付けをしてから戻るという主人を残し、俺達は来た道を戻った。

 夕日をバックに、女子との帰り道。

 うむ、感無量。

 ネジが二、三本どころか、ネジが存在しないくらいオツムが緩いが、この際贅沢は言っていられない。


「そういえばさ」

「んだよ」

「お前が帰る条件としては、[お前が真人間になる]か[俺が死ぬ]の二択だろ」

「だから?」

「俺が魔王を倒して世界を救ったとしても、お前はずっと帰れないんじゃないの?」


 そこでミツルは脚を止めた。振り返ると、夕日が逆光の役割をしていた。つまり、目に日差しが入って、こいつがどんな顔をしてるかよく見えない。

「アータに魔王が倒せるわけないじゃん」

「やってみなきゃわからないだろ。今はこんなザマだけど、レベル上げて、装備も充実させて、伝説の剣でザクーっと」


 俺が剣を握る真似をする。そうだ、明日剣を買いに行こう。さすがにこの街なら装備できるものがひとつくらいあるだろう。

「かくして俺は伝説となり……」


 そこで俺はふと思う。

 その先には、何があるのだろうか。

 魔王を倒して世界を救う。


 その先の世界で俺は、何をすればいいのだろう。

 ゲームならばそれで終わりだ。せいぜい、隠しダンジョンか隠しボスでも目指すか、二週目に入るくらいだ。


 しかし、これは現実で。

 ハッピーエンドを迎えたとしても、この物語は否が応でも続いていくのだ。

「まあ、そのあとはマオとのんびり旅でもするさ」


 あの箱入り娘を連れ回すのもいいだろう。魔王がいなくなって平和になった世の中だ。あいつもその頃には外出許可くらい親からもらえるだろうし。とりあえず今はマオを目的地まで連れて行って、そこでマオの目的が終わったら、一緒に魔王を倒して、それからあてもなく……


「バカじゃないの」

 吐き捨てるように言って、ミツルは早足で俺を置き去りにした。

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