第25話
「では私は川で洗浄してきますので」
「うぃーっす」
両手に土の塊を抱いた科学者に雑に返事して、スコップの柄を握り直す。ちなみにこの道具もここから出土したものを整備したらしい。そりゃそうだ。
……さて。
土をザクザクしながら物思いに耽る。
この世界の状況を整理しよう。
ここは勇者と魔王の中世チックな、あんな感じ。
ここまではいい。
問題はトモノヒ教だな。これがどうもキナ臭い。
大衆に支持された宗教。勇者を支援する一方で、科学の類をタブー視している。
魔法はよくて科学はだめか。ここが肝だな。
「そういえば」
「あん?」
「こっち来てからポーションとかそういう回復薬見てないな」
「あー」
「ここの住人はケガしたらどうするんだ」
「知らねーよ。ツバでもつけとくんだろ」
そいつはなんとも不便だな。マオみたいな回復魔法を使える魔法使いは見た感じそうはいないだろうし……
はて。
「そういえばマオは?」
「アータが置き去りにして飛び出したんでしょーが」
振り返ると旅館からついてこなかったんだな。まあ、ついてこいとも言っていないし、連れ回すのも悪いし、いいか。
「あの子がさ」
「おん?」
「あの子が行きたい場所に連れて行ったら、それからどうするわけさ、アータは」
「そりゃ、魔王を倒す大冒険に決まってんだろ。もう忘れたのか」
俺に背を向けて土いじりをするミツルの顔は見えない。
「それさ、あの子に手伝ってもらうわけ?」
「? …………あー」
まずい。その線を考えていなかった。つまり、マオが目的地について、それでマオの目的が達成され、マオの旅が終わってしまうパターンだ。そうなると、俺たちはまた二人になってしまう。魔王どころか、道中のモンスターに出くわしてあっさり全滅するのが目に見える。だって俺たち、ここまでずっと裸装備の無職だもの。
「なんとかして、あいつにも手伝ってもらう!」
「無理じゃね」
「なんでだよ。必死で頼めばなんとかなんだろ」
まだ付き合いは浅いが、ああいうタイプは押しに弱いと見た。拝み倒せばなんとかいけるはず。
「必死で、ね」
意味深につぶやくギャルは相変わらずこちらに目もくれず土をいじっている。
「なんだよ」
「別に」
なんか引っかかるな。追求しようと口を開くより先に、声が飛んできた。
「そうだ、昨日たまたま聞こえたツマンネー話の続きを聞かせてやろうか」
「…………」
「あのあと、不登校のチャラ男を刺した男は捕まったさ。まあ、当たり前か。過失致死罪だったかな。そのあと、女の方は男とすっぱり縁を切って、真っ当に生きることにしたらしい。チャラ男の親に泣いて侘びて、葬式にも出てきた。人生どん底のドロップアウトの命でも、少しは役に立ったみたいだな」
「…………そうかい」
よかった、と安堵するところなのだろうか。わからなかった。ただ、少し胸に残っていたわだかまりが、軽くなった気がする。
間違ってはいなかったのだ。
ただ、続かなかっただけだ。
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