第23話

 ……いや、めでたくないし。

 要するに彼はここであるものを見つけて以来、異端技術に没頭したということだ。

「それで、何を見つけたんですか」

「…………」


 彼はキョロキョロと辺りを見回し、俺とミツルしか見せる相手がいないことを確認してから、更に「他言無用に願います」と念押しをした。よっぽどだな。

「こちらです」

 懐から質の良さげな布に包まれたものを取り出す。


「タピオカか?」

 んなわけあるか。

「たぴ……?」

「気にしないで続けてください」


 布がハラリと開かれる。

 そこにあったのは……

「ああ……」

 なるほど。

 これはまさしく、この世界では異端である。


 そして俺の世界では、日常である。

 そしておそらく、これは……

 俺の……

「スマホじゃん」


 俺が当てるよりはやく、黒ギャルが口を開いた。その長方形の金属の板は、たしかに我ら現代っ子には必需品であるスマートフォンであった。全体を覆っていたであろう手帳型ケースは劣化し中の端末がところどころ露出している。


「少し触っても?」

「どうぞ」と渡され、一礼しつつ、恐る恐るスマホを覆う手帳型ケースをめくる。その内側には、やはりというか、俺が刻んだ文字があった。

 仮説が確信に近い推測に化けた。


「我々の扱う――知りうるどの言語にも該当しない古代文字なんですよ」

 それは生前の俺が、小学校の頃に授業で使うからと買わされた彫刻刀で刻んだ文字だ。おまじないのつもりで、いつだったか願いを込めて刻印したもの。


『絶対に友達と卒業する!』


 そして、ついぞかなわなかったもの。


「ありがとうございました」

 ほんと、持ち主の方を守ってほしかったもんだ。

 パタンと手帳型ケースを閉じて、俺はそれを神父様の手に戻した。


 もう未練はなかった。

 俺のだと主張すれば取り戻せるかもしれない。しかし、そこまでする価値を俺は感じなかった。この壊れたスマホは、俺にとっては切って捨てた過去でしかない。対して、神父様にとっては希望や未知の象徴なのだ。


 どちらが持っているべきかなど、論ずるべくもない。

 電話帳に登録する友達などいなかった持ち主は、もういないのだ。

 それは終わった物語なのだから。


「スマーホですか」

 ところどころサビたり欠けたりしているそれを、彼は感慨深く撫でる。汚れという汚れはなく、金属部分がピカピカと光を反射していることから、相当念入りに拭いたり磨いたりしたことがうかがえる。やはり返せとは言えない。


「スマホな」

「スマホー」

「違う違う。なして伸ばす」

 ギャルの教えを受ける彼は、興味津々といった様子だった。

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