第21話

「アータさ」

「お前、この世界のことついて何か知ってるんじゃないか」

 追ってきたミツルが何か言いたそうだったが、ここは機先を制する。なんというか、他人の話を聞いている余裕がない。


 俺は今、少し揺れている。

 動揺、なのかもしれない。

 一瞬、世界の真実に触れたような、大それたようなことをした気分だ。


「知らないっての。言っただろ。ジジイが勝手に選んだんだよ」

「じゃあ解釈の仕方だ。たとえば、俺の元いた世界から一秒後の世界があったとして――それも異世界ということなのか」

 俺はただ前を向いていた。後ろでミツルがどんな表情だったかはわからない。そこまで気が回らない。


「あくまで人間の言葉で表現するなら……世界ってのは無限の白紙の上に散った、無数の点なんだよ。決して交わって線になることはない、点在し独立した確固。特定の点の前には過去の点が、後には未来の点がある。その点だって、横には違った未来になってブレた点がある。たとえば、どっかのチャラ男が余計なことせず死なずに済んだ点だって、どこかにはある。白紙の上に浮かぶそれらの点の動きを管理と観測するのが神だってジジイは言っていた」


「……そうか」

 このとき、俺の中ではある仮説ができた。けれど、これをミツルに聞かせても真相にはたどり着けないだろうし、もう少し寝かせておきたい考えだった。


 旅館の外見を、内装を見たあたりまでは、まだギリギリそういう似通った文化もあるくらいの考えでいられた。自分たちの知ってる文明との、たまたまの合致だと。しかし、この文化の原型が地中由来で、俺の知ってるそれと完全に一致していた場合、自然とある仮説にたどりつく。


 なぜ、ここでかつての日本の産物が出土するのか。

 それを教団側が否定する意味とは。

 どうも、異物だから蓋をしたいだけとは思えないのだ。


「遺跡に行ってくる」

「行ってどうすんのさ」

「なんというか、わかりそうな気がするんだ」

 定まりそうな気がするんだ。

「わけもわからず放り込まれた世界で」

 前の世界じゃ失敗した、

「自分が何をすべきなのか」

 努力の方向性というやつが。



 遺跡発掘現場はエマスラ郊外にあった。そこに近づくにつれ人通りは少なくなり、やがて誰もいなくなった。民家どころかまっとうな道もない荒れ放題の野原を更に進んだ先に、ようやく発掘現場はあった。雑多に掘り起こされたところは、ともすれば畑でも作ってるのかと思った。


「やあ」

「ども」

 その中年男性は頭に布を巻いた、いかにも土木作業やっていますといった格好であった。


「旅館の方から、ここだと聞きまして」

「ああ、どうも。家内が世話になってます」

 発掘現場の中心でスコップを肩に担いでいた人物は、はたして目的の相手であった。

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