第18話

 驚く俺に、オールバックを決めたおっさんは「はっはっは」と朗らかに笑う。

「あの頃は若かった。『俺が魔王を倒し、この世界を救ってみせる!』なんて息巻いて、棒きれ片手に家を飛び出して、勢いで教会に行ったら神父に止められたんで殴り飛ばして……」

「ひえー」

 自慢気に自分語りしてるけど、最早ただのヤンキーじゃん。これヤンキー特有の武勇伝ってやつでは。


「結局トモノヒ教の本拠地であるトルカの大聖堂まで行って、そこで鎧や剣もらって本格的に活動開始さ。そのとき紹介された僧侶が可愛くてさ」

「あ、はい」

「男の一人旅のところにあんなカワイコちゃんが来ちまったからな。そりゃもう、魔王がどうだこうだなんて手につかなくなる。旅が気がついたらデート気分でな。ついついやることやってたらガキがデキちまってな。こりゃもう旅なんてやっていけねえやと道中の村に居着いてな」

「あ、魔王討伐の旅の途中で子作りしてたんですね」


「なにせ家出同然だったからなぁ。孕ませたニョーボつれておめおめ帰ることもできず、ニョーボも孤児で教会で育ったって言うし……縁もゆかりもない村で暮らすしか」

 違う、言いたいのはそういうことじゃない。


「とりあえず嘘の報告で数年くらい時間稼ぎはしたんだが、とうとう教団から派遣された審問官にしょっぴかれてな。ぐうの音も出ない取り調べに屈して破門宣告よ」

 なんか被害者ヅラして話してるけど、因果応報では?


「それから村中の風当たりが強くてな、石投げられたこともあった。ニョーボはとうとう子供連れて出ていくし、自分自身も村にはいられなくなり、身分を隠してこうして馬車の運転手を……」

「そ、そっすか」

 どうしよう。同情できる余地が一ミリもない。


「ところで勇者としての実績は」

「旅の途中でモンスターを二、三匹狩ったくらいかなあ。ダンジョンもクエストもやってないし」

 だめだこりゃ。


「若いの。若さに任せて無茶をするのはいいが、親不孝はいかんぞ。この頃、故郷にいる親をよく夢に見るんだ。もっと親孝行しておけばよかったとな。今となっては会わす顔がねえ」

「そっすね」

 まあ今更だな、お互い。俺もこのおっさんも、面と向かって親にどうこう言える身の上じゃない。妻子まで作ったおっさんの方がまだ立派かもわからん。

 なんか妙にフレンドリーになったおっさんに一旦別れを告げ、俺達は街へ繰り出した。次の貨物便が明日の昼頃。その間に色々と済ませておけということだ。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る