第16話

「それで、このまま乗ってれば目的地の王都ってところにつくんだろ? ヒデー席だけど歩くよりはマシか」

「お前は何を言っているんだ」

「は?」

 真顔で呆れてると若干キレ気味にギャルが反応した。


「あ、そうか。そうですよね」

 その隣でマオが納得したようだ。

「貨物便ですから、道中の街や施設で荷降ろしや荷積みをしなければならないですし、馬と乗り手の休息や交代も考えないといけない……かなりのインターバルができますね」


「おまけに次の街の業者も似たような対応してくれるとは限らんしな」

「じゃあどうすんだよ」

「次の街で考えるしかないだろ」

 お前の頭は飾りかタピオカ入れか。

 そこまで言おうとして慌てて飲み込んだ。気を遣ったかとか忖度したとかではない。


 出発した瞬間、舌を噛みそうになっただけだ。

「揺れますね」

 どこか楽しそうなマオの声を聞きつつ、俺は手近な貨物をつかんだ。


「ちょ、おま、お尻、いた」

 ヒップホップしてるミツルはさておき、この揺れは強烈だ。サスペンションのサの字もない、舗装された道路でもない。おまけに乗客なんて気にすることもない貨物便。そりゃこうもなるか。


「あたっ」

 天井に頭打った。立ち上がらず、姿勢は低くしていた方がいいな。床に這ってみると、今度はそばの積み上げられた箱がガタガタ揺れている。落ちてきて直撃したらめちゃくちゃ痛そう。しかたないので元いた椅子に戻る。


「勇者の旅でなんでこんな惨めな目に」

 ぼそっと呟く。きちんとした馬車にVIP待遇で乗ったり、かっこよく馬に乗ったり、飛空船……は終盤までないけど、とりあえずこんな無様な移動はない。


「アータのせいでしょ」

 振動と物音で聞こえないと思ったが、同じように頭を打ったこいつには聞こえたらしい。

「やかましい」

 たんこぶこさえてるミツルを笑う余裕もない。


「他に手はなかったろうが。それよりお前、なんか便利なアビリティないんか。神通力的な」

 腐っても神の親族だろ。

「ひとつだけある」

 あるんかい。

「でも今は役に立たね」

 使えねえ!


 そんな調子で馬車は輸送先である街、エマスラへ向かった。王都ビギンにまたひとつ近づいたわけだが、まだまだ先は長い。なにせ地図の端にあったマオの家から、地図の中心へと向かうわけだからな。


 歴史が埋もれた街エマスラ。

 そこで俺もまた、ある歴史に触れることになる。

 それが俺の努力の方向性というものを定めていくことになる。

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