第15話

「まずこれが一点目。つまり渡したところで誰も馬車を運転できないのさ。次に、馬の――この際動物全般でもいいが――飼育や管理ができるものは? 見た所全員テイマー系の職業も技能もなさそうだけど」

 これも同じ結果。


「二点目だな。それから、馬を入れる施設や手入れをする道具も……持っていやしないんだろ?」

「…………」

 はいこれも同じ結果でした。


「こっちだって商売道具とはいえ丹精込めて育てたんだ。乗り捨てだの野ざらしだのされたらたまったもんじゃない。大金積まれたってお断りだね」

 丸太のように太い腕が左右に振られる。


「なんというか……軽率でした」

 俺は軽く頭を下げた。軽く考えすぎていたというか、あまりにゲーム的な思考だった。本来であれば考慮しておくべき要素を、そういう面倒を省いたゲームをもとに考えていたのだ。乗り物だって、本来どこからともなく出したり隠せたりできるものではない。きちんとした場所なり道具なり資格なりが必要になるのは当然だ。


「もっとも」

 転生者特有のカルチャーショックを受けて沈んでいる俺に思うところがあったのか、話は続いた。

「うちは流通業者でもあってな。街道を使ってこの街から別の街へ物のやり取りも行っている。しかしだ、いつも定期便が満杯になるわけじゃない。ある程度の隙間ができるわけだ。これを遊ばせておくのはもったいない。そう思わないかい?」


「なるほど」

 首をかしげているミツルを尻目に、俺はにやりとした。

「貨物用だから、乗り心地はお世辞にも良いとは言えないが、通常の代金より安くしておこう」


「それでお願いします」

「荷物差し出し用のスケジュール表だ。ここに時間と行き先が載っている。参考にしてくれ」

 パンフレットをもらった俺は礼を言いつつ、いったん店を出た。



「どゆこと?」

 後を追ってきたミツルは心底不思議そうで。俺はため息を我慢するのに苦労した。こいつはもう……本当に頭の中はタピオカしか入ってないんじゃないか?


「ええと……つまり、馬車は手に入れられませんでしたけれど、荷台には乗せてもらえることになったのですよね」

 頭タピオカの隣でマオが人差し指を立てて説明する。


「よくできました」

 百点満点の回答にうんうんうなずく。

すると隣の赤点が、

「んだよ。最初からそう言えよ」

 などとブツクサ言っていた。

 最初からそう言ってただろうが。


 それから数分後、予定通りに出発する貨物便に俺たちは乗り込んだ。馬車の荷台は一見すれば木箱が満載で隙間がないが、隅っこに遊びとでも呼ぶべき空間があった。そこは木箱を載せるには空間的に足りず、荷降ろしのことを考えれば人一人通れれば便利だろうという事情があると察した。その細長い場所に簡素な椅子と、シート代わりに割と清潔そうな布が掛かっていた。せめてもの情けというやつだろうか。


「なにこれ硬い。お尻痛くなるじゃん。クッションとか用意してくれないワケ?」

 こいつには人の心というものがないのだろうか。ギャルに情けという情緒を理解しろというのが無理難題か。

 しぶしぶといった感じでドカッとケツを椅子に載せるミツルと、楽しそうにお行儀よく座るマオ。本当に同じ女か。

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