第13話
俺は改めてメニュー表を見る。ハズレしかないロシアンルーレットやらされてる気分だ。マオにパス。すると受け取った彼女は瞳をキラキラ輝かせた。
「外食なんてはじめてです。こういうの憧れていたんです」
はははこやつめ。健気なことを言いよる。
…………。
…………。
おすすめ聞こうと思ったけどダメそう。
そりゃ箱入り娘だもんな。親の愛情たっぷりの手料理しか食べたことないか。うちなんてここ数年はテーブルに置いてある金で飯買ってただけだったな。まったく温かみのない食卓。つくづく生前はロクな思い出がない。
数分後、とりあえず俺とマオも思いつきで注文してみる。まああれだ、ダメそうだったら食わなきゃいいだけだし。ミツルに食わせるものよりはマシだろう。
などと考えていると、店員が料理を持ってきてテーブルに並べた。するとミツルは目を輝かせた。
「え? マジ? これマジ?」
「ああ、マジだ」
俺は明後日の方向を仰ぎながら言う。
「タピオカをふんだんに練り込み散りばめたタピオカパン。新鮮な野菜にタピオカを混ぜ込んだタピオカサラダ。極めつけは王道を往くタピオカミルクティー」
「マジサイッコーじゃねえか!」
矢も盾もたまらないといった具合で食いつくミツルに、俺はふっと息をもらす。うまくいったようだ。
「あの」
怪訝な面持ちのマオに、俺は慌てて詰め寄る。
「どうした」
小声でささやくと、向こうも合わせて声のボリュームを下げた。
「あれって、トドードの卵ですよね」
「俺たちの故郷じゃタピオカって言うんだよ」
「そうなのですか。トドードって、肉は食べるのですけれど卵は聞くところによると捨てるそうです。中には卵も食べる物好きな方もいるそうですけど」
要するにゲテモノ食いか。まあいいや。俺が食うわけじゃないし。
まず、名前からしてカエル系のモンスターだと踏んだ。とすれば、その卵も似た形状――つまりは、タピオカに酷似していると踏んだ。
「美味しいのでしょうか、トドードの卵って」
「味なんてどうでもいいのさ」
「?」
「こいつらはうまいからタピオカを食べたいんじゃない。タピオカを食ったという事実が欲しいだけなのさ」
「よくわかりません」
「学校の……社会の付き合いというやつさ」
学生なかばで脱落した俺が言っても説得力はないだろうが。
ともかく、これでこいつの腹の虫もおさまるだろう。
俺はガツガツとカエルの卵をかっこむギャルを生暖かく見守る。味付けは濃い目にしてくれと頼んだ。調味料の味で元の味などわかるまい。見た目さえごまかせればどうとでもなる。
それはさておき。
「アイズ焼き……まんまだな」
俺は自分が注文したものに目を落とし気を落とす。何かのモンスターの目玉を焼いたものが皿の上でゴロゴロ転がってる。DHAは多そうだな……あ、そのうち数個と目が合った。
「美味しいです!」
「よかったね」
にこにこと巨大トカゲの尻尾のステーキを切り分けてるマオに対し、俺は憂鬱な気分で目玉をすくった。
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