第11話
真っ暗闇の中、目を開く。夜中に目が覚めたのかと思ったが、周りを見るとどうも違うらしい。なぜか俺は最初から立っていて、どこまで進んでも闇で、何も見えないし何も触れない。
ああ、そうか。
これは、夢だ。
たまにあるよな、こういうわけわかんない夢。フロイト先生に聞けば何かわかるんだろうか。
こういうパターンの夢はなんか意味不明なことが起きて、なぜかそれに納得しつつ、いつの間にか目が覚めている流れだよな。
とか考えていると、目の前に火だるまが現れた。
人体模型でも燃えてるのかと思ったら、そいつがこっち振り返った。こわっ!
逃げようと思ったら脚が動かない。夢だからな。
しかたないからまじまじ見たが、こういうモンスターなのだろうか。
燃え盛る炎そのままに逆立った赤い髪に、ガスレンジの炎っぽい色の青い瞳。性別は男っぽい。メラメラ燃えているが、近くにいても熱くはない。燃やされているというより、炎の魔法を纏っているような。自然現象の炎というより、意思をもったオーラのような印象。
それはそれとして。
なんでこいつが俺の前に?
「あなた誰です?」
こんな知り合いいない。とりあえず聞いてみた。
『俺は――――』
炎にまみれた顎が動いた。
『――――――』
………。
………。
声がする。
「朝ですよ! 起きてください!」
これはあれか。幼馴染がねぼすけの主人公を起こしてあげるために毎朝家まで来てくれるとか、そういうあれか。いいね、実にいいねこういうの。古き良き日本の侘び寂び。様式美ってやつだよ。
「うーん。あと五分」
そこで俺がこう返す。これも様式美。お約束ってやつだ。もっとも、遅刻の心配なんて皆無であるし、実際あと五分であろうが一〇分であろうが、寝ていても構いはしないのだが。まだ学校に行っていた頃は、この二度寝が気持ちよかったなあ。不登校になってからは昼過ぎまで寝てるのがデフォだったけど。
「とっとと起きろボケ!」
ミツルの蹴りでベッドから叩き落された俺は、床を転がるはめになる。
暴力ヒロイン……これは負の遺産……過去の過ち……あってはならぬ。
「お前みたいなのは今更流行らねえんだよ……」
「あ?」
過ちを繰り返してはならぬとフラフラ立ち上がる俺に、このギャルはガンを飛ばしてきやがった。
「皆さん起きましたね。それでは」
もうパジャマからローブに着替えているマオはパンと手を合わせる。なに? ラジオ体操でもするの? そういえばあれも小学校中学年あたりから行かなくなったな。サボりぐせはあの頃からあったのかも。でも必死こいてスタンプためてもらえるのがお菓子一個だのノート一冊だのじゃ割りに合わないんだよな。早起きは三文の得とは言うが、そんな二束三文のために骨を折る価値はないだろうと。コスパ悪すぎる。
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