第10話
学校で皆と仲良くなりたかったのにうまくいかなかった。ここでも、女を助けようとしたが、結局それはただの勘違いで、あの二人はそこまで険悪な仲ではなかったのだろう。ああいう付き合い方もあるのかもしれない。友人関係さえまともにできないそいつに、男女関係のことなどわかろうはずもなかった。あのまま二人を放っていても、きっとどこかで落とし所を見つけて、仲良く表通りに戻っていたのだろう。そこに横槍を入れられて、気が動転して男はナイフを使ってしまった。そういうことなのだ。
結局、何もかもが空回り。
そいつは自らの失敗を嘲りも怒りも嘆きもしなかった。
ただ、この世界に自分の居場所はなかったのだと、悟った。
そしてそんな世界に、ひどくうんざりした。
……。
…………。
「………………とまあ、こうして、一人の学生の生涯は終わりましたとさ」
だいぶ長くなった上に後半なんて脱線していたような気がする。辛気臭い不幸自慢のようにも聞こえたかもしれないが、一度死んだ高校生の話なんてこんなものだろう。
マオの反応はない。さすがに期待はずれすぎて言葉もないといったところか。
おっくうではあるが、首を横に捻ってみる。
「……すー……すー」
寝てました。
長い上につまらなかったからね、しかたないね。
俺は天井を見上げる。俺も寝よう。
「お父さん……お母さん……」
なんともかわいい寝言だことで。
両親か。うちのは何してるかな。とりあえずテキパキと葬儀やって、遺品整理して終いかな。手間かけさせて悪いなとは思うけど、もう会えなくて悲しいとか、また会いたいなとか、そういうのはない。
多分めぐり合わせというか、かみ合わせが悪かったんだなって。
もっとマシな親だったら、もっと相性が良ければ、少しは違った結果になったかもしれない。虐待はされなかったから、そこだけはマシだったのかもしれないけど。向こうもそんな感じだろう。もっとできの良い子供だったら、と。思う所あれば、また子供を作るだろう。そこまでいったら、もう俺がどうこう考えることではない。
ともかく、あの人達と俺の関係性は、もうないんだ。
自分の方はともかく、マオの方はどうするかな。
彼女を見る限り、さぞ愛情を注いで育ててもらったことであろう。それを本人の意志とはいえ、なかばさらっていくように連れ出したのは……良くはないだろう。かといって、今更事後承諾を取り付けに行くのもあれだし、マオにはマオなりに目的があるようだし。そういうことをするのも無粋というものだ。子供には子供の世界が、子供なりの事情があるものだ。
とはいえ、親からすれば大事な箱入り娘をこのまま連れ回すのも気が引けるので――
そのうち、余裕ができたら挨拶くらいはしておこう。
――なんて、逃げに近い問題の解決の先送りをしつつ、俺は眠りについた。
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