第30話 セカンドリング(終)

「…光輔さん、実は私…おかしな恋愛嗜好があるんです」

「え」


何故急にそんな話を切り出したのか解らなかった。ただこの幸せな気持ちにいる中で私を知ってもらうひとつのこととして話しておきたいと思ってしまった。


「私、結婚指輪をはめている男性が好きなんです」

「……」


私の言っている言葉の意味がよく解らないという表情の光輔さんに、私の今までの恋愛観を詳しく話した。


(話すのは恥ずかしいけれど…でも知ってもらいたい)


そんなおかしな嗜好があってもちゃんと光輔さんのことを好きになったのだと。


結果として光輔さんは結婚していた訳だけれど、初めて逢った時、光輔さんは指輪ははめていなかった。結婚指輪で好きになったんじゃないと強調したかった。




「──という訳で…」

「…はぁ…そういうことがあるんだ。驚いた」

「でも光輔さんは違いますから!光輔さんはそういうの関係なく好きになった唯一の人なんです!」

「……そうか」


私の言葉を受けて光輔さんは柔らかく微笑んだ。でもすぐに真面目な表情をして私を見つめた。


「じゃあさ、郁美は俺が指輪をはめたらどうなっちゃうの?」

「──え」

「結婚指輪。はめてみようか?」

「!」


その言葉に何故か得もいわれぬ快感が私の体を駆け抜けて行った。光輔さんが結婚指輪をはめたら──?それを想像すると異常なほど気持ちが高揚しているのに気が付いた。


「前の時の指輪、持っている。はめてみようか?」

「え」


その言葉を訊いた瞬間、私の逆上せていた頭は冷静になった。ベッドから立ち上がろうとした光輔さんの腕を引っ張った。


「郁美?」

「や…はめないで」

「……」

「前のなんて……他のひととの結婚指輪なんて…しちゃヤダ」

「!」


そう、いくら結婚指輪をはめた男性が好きだといっても、好きな人が私とじゃない結婚ではめていた指輪をはめるのは厭だと思った。


「今度光輔さんの左薬指にはめるのは私との結婚指輪であって欲しい」

「…郁美」


光輔さんにとっては二度目の結婚指輪。一番目ではないけれど、私にとっては最初で最後の指輪であって欲しいと……そう思った。


「お願い…」

「解った。いつか郁美との結婚指輪をはめる時まで郁美の反応、愉しみにしておくよ」

「反応って」

「だってもっと俺のこと、好きになっちゃうんでしょう?」

「……多分」

「そうしたらもっとえろくなってくれるんだろうなぁ」

「え?!」

「俺ね、もっともっと…厭らしいことしたいの、郁美に」

「~~~っ」

「こっち方面も育てて行きたいと思っているからね」

「こ、光輔さんっ」


鎮まりかかっていた体が一瞬で沸騰したかのように火照った。



初めての恋が、初めての彼があなたでよかった。


色んな体験や経験をこなして、そして翻弄されながらも丁寧に月日を重ねて行く。


その先に私たちの幸せな未来が待っている。



あなたの左薬指に私とのセカンドリングがはめられる日はもうじき──すぐそこまでやって来ている。





Second Ring(終)



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Second Ring 烏海香月 @toilo

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