第25話 希望
三好さんから語られた真戸さんの過去。
好きだった人と結婚したけれど僅か半年でその関係は破たん。以来真戸さんは結婚しているとはいえまともな結婚生活を送っておらず、ずっとひとりだった。
「真戸が未だに夏織を好きかどうかは解らない。でも傍から見ている分ではあいつも夏織とのことを吹っ切りたいと思っているはずなんだ。ただそのきっかけが中々ないだけで」
「……」
「今までに何人かの女性と付き合ってはみたものの長続きしなかった。真戸の中では夏織を吹っ切るだけのものが彼女たちの中にはなかったからなんだろうけど」
「……」
「でもおれ、藤澤さんには何か感じるものがあったんだ」
「──え」
「だってあいつ、合コン中、携帯を弄らなかった」
「……は?」
三好さんの突拍子もない言葉に?マークが浮かんだ。
「いつもなら合コン中、あいつずっと携帯触っていて本当につまらなそうにしているんだ」
「…でもあの日もつまらなそうにしていましたよ。頬杖ついて窓の外なんか見ていたりして」
「それでも携帯を見ていなかった。あれは外を見る振りをして藤澤さんの話を訊いていたんだよ」
「…!」
「酷い時なんて途中で帰っていたからね、あいつ。最後までいるなんて今までにほんの数える程度しかなかった」
「……」
「だからおれ、確信したんだ。真戸は藤澤さんを気にしていると」
「……」
余りにも突然の話に私は戸惑った。
(真戸さんが私を気にしてくれていた?)
そんな嘘のようなことがあったのだろうか?
でもそれを裏付ける出来事を三好さんは一気に畳みかけて来た。
「おれが真戸に藤澤さんに連絡送れって言ったら送ったよね」
「…はい」
「それ、今までじゃ絶対なかったことだから。いくらおれが言っても訊かない時は訊かない奴なんだ」
「……」
「それに藤澤さんと話すために二時間外で待っていたって訊いたけど」
「…はい、そういうこと、ありました」
「それも今までの真戸からしたら絶対あり得ないから!二時間も待つなんてないない!」
「……」
「ちなみに付き合うことになったきっかけは?真戸から言った?」
「…はい」
「はい、それもう決定的!今まで真戸から付き合うなんて言葉、出たことないから」
「っ!」
「あいつはいつも受け身だったんだ。自分から動くことを恐れていて、また夏織の時のような失敗を繰り返したくなくて、自分から動くことが出来なくなっていたんだよ」
「……」
「それなのに藤澤さんに対してはそうじゃなかった」
「……」
(それって…)
ほんの短い時間しか接していなかったけれどその中での真戸さんとのことを一生懸命思い起こしてみる。
するとそのどれもが真戸さんから受けてこなしていることに私は気が付いた。
食事に誘ってくれたのも、お店を決めたのも、そしてホテルに誘われたのも…
(みんな…真戸さんから)
真戸さんの事情を知った今ではそのどれもが私にとっては嬉しい行動ばかりだった。
「ね、だから真戸は藤澤さんと新しい一歩を踏み出したいと思っているはずだ」
「…そう…なんでしょうか」
「絶対そう!おれが保証する」
「……」
三好さんはとても力強く断言してくれた。私もその言葉に後押しされてもう一度真戸さんとの恋を頑張ってみようかという気持ちになっている。
ただ……
(じゃあなんであの時)
ラブホテルでの出来事が苦く反芻される。何もかも初めてだと告げた私に対して真戸さんは急に素っ気なく冷たくなった。そしてそれ以来連絡は一切なくなった。
その意味をどう解釈すればいいのか──
結局肝心の部分を三好さんに訊くことは出来ず、始終真戸さんとのことを応援されてその場を終えたのだった。
三好さんと別れて帰路に着きながら色々考えていた。
三好さんの話を訊く前と後では明らかに抱いている気持ちが違っていた。真戸さんが既婚者であってもそれは既に破たんしているものだった。
仮に三好さんの言う通り、真戸さんが私に何かを期待してくれていたなら私はその想いに応えたいと思った。
(ううん、私の方こそが真戸さんを諦めきれない)
だったら私の取るべき行動はひとつしかなかった。
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