第24話 真実

案の定恐れていたことが次々私に襲い掛かった。


私の顔を見たエリちゃんや美佳さんが『どうしたの、その顔!』と色々訳を訊きたがってかなりしつこく言い寄られてしまった。


哀しい恋愛小説を読んで泣き過ぎた──なんて見え透いた嘘を何が何でも通してその場を凌いだり、内野宮係長にも要らない気を使わせて心配させたりして一日居心地の悪い環境に身を置いた。



そして終業後、約束の場所で待っていると三好さんが息を弾ませてやって来た。


「ごめんね、遅くなって」

「いえ、全然待っていませんから。お仕事お疲れ様でした」

「うん、藤澤さんも」


少し和らいだ空気が私たちに纏わりついて雰囲気よくお店の中へと入って行った。


合コンの時に使った座敷ではなくこじんまりとしたテーブル席に案内され、お互いノンアルコール飲料を注文した。


「三好さん、お酒飲まないんですか?」

「うん。今日は真面目な話をするから」

「あ…そう、ですか」


『真面目な話』──それを訊いて気が緩んでいた気持ちが少し硬くなった気がした。


「あ!いや、真面目なっていうか…そんな怖いこととか脅かすような話をする訳じゃなくてね」

「…はい」

「……藤澤さんは真戸のことが好き、なんだよね?」

「……はい」

「花井さんから藤澤さんが真戸を気に入っているって訊いて、おれ、真戸に藤澤さんに連絡を取るように行ったんだ」

「はい、それは真戸さんから訊きました」

「そっか…でね、おれ的には藤澤さんと真戸が巧く行けばいいと思ったから焚きつけたんだ」

「…でも…真戸さんは結婚、しているんですよね」

「あ…そうだ。其処から話さなきゃいけないんだった」


三好さんは少しだけ思案顔をしながら何かを考えているようだった。


「あの、三好さん。言い辛いことだったら無理に話してくれなくていいですよ」

「え」

「私…真戸さんが既婚者だって訊いて…ちゃんと諦める心構えもして…不倫とか絶対したくないと思っているから」

「あ…いや、違う!おれは不倫を進めている訳じゃなくて、藤澤さんは真戸が変わるきっかけを与えてくれるひとだと思えたからおれは応援していた訳で」

「変わるきっかけ?」

「うん…話すと長くなるけど訊いてくれる?」

「…はい」


そうして三好さんは真戸さんの真実を私に語り始めた。


「真戸が夏織かおり──えっと、真戸の嫁なんだけど、夏織と結婚したのは真戸が高校を卒業してすぐだった。真戸が18で夏織が19の時」

「早い結婚だったんですね」

「うん。元々夏織が勤めていたファミレスに真戸がバイトに入って、それで真戸が夏織に惚れて真戸の熱烈なアプローチで付き合い始めて出会って一年後、ふたりは結婚した」


(真戸さんの方から…)


今の真戸さんにそのイメージは全くなく、少しだけ知らない人の話をされている気になった。


「だけど結婚後、僅か半年で夏織は真戸の元からいなくなった」

「え」

「他に好きな男が出来たから別れてくれって、後日記入済みの離婚届けが郵送された」

「そんな…」

「元々真戸のごり押しで付き合いが始まって、夏織の方はそんな真戸との一時の熱情で結婚したようなものだったらしい。落ち着いて共に生活してみると色々理想とは違ったんだろう。そういう鬱憤を他で晴らしてしまったという感じだ」

「…それで、真戸さんは」

「当然納得なんてしていない。離婚なんて絶対するもんかと意地になって届けを出さなかった」

「…奥さんを…愛していたんですね」

「そうだと思ったけど…それでも流石に八年ほったらかしは長過ぎだろう。半ば自棄やけになっているとしか思えなくて、おれは真戸に夏織とのことは諦めて新しい恋を探せと色々出逢いの場を設けて来たんだ」

「あの…三好さんと真戸さんってどういう関係なんですか?単なる職場の先輩後輩というだけにしては真戸さんと奥さんのことを詳しく知っていて…」

「あぁ、夏織はおれの従兄妹なんだ」

「え」

「そういう縁でふたりのことをよく知っているって訳」

「そ、そうなんですね」


そこで一旦会話が途切れ私は聞いた話を整理した。


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