第21話 相談
噴き出した私が一通りの始末をした後、係長は静かに問うた。
「変なことじゃない。かなり重要なことだ」
「……」
「おまえ…本当は真戸と付き合っているんだろう?」
「……」
「真戸がああやっておまえを待っていたということは、おまえがそれなりに真戸と関わりがある人間だからだ」
「……」
「なぁ、正直に言え。今は業務中じゃない」
「……」
真戸さんの過去を知っていそうな係長だ。これだけ真戸さんと私を気にしているということは何か理由があるのかなと思った。
そして何よりも──
(誰かに…訊いてもらいたい)
安易に外に吐き出せない私の心の中のモヤモヤを吐き出せるものなら吐き出したいと思った。
(もしかしたら係長は何かヒントをくれるかも知れない)
真戸さんと付き合う上で知っておいていいことを教えてくれるのではないかと、そんな藁をもすがる気持ちで真戸さんとのことを話そうと思った。
「藤澤」
「……はい…私…真戸さんとお付き合い、しています」
「!」
「しているん…ですけど…でももう…ダメかも」
「──は?」
「私…解らなくて…どうしたらいいのか…」
「っ、おい、此処で泣くなよ!俺が泣かせたみたいに見られるのは御免だ」
「……」
酷く焦った係長のその姿が妙に新鮮で、何故か笑いが込み上げて来てしまった。
「笑ったな?あーいや、いい、笑ってろ。笑いながらでいいから話せ」
「……」
「真戸と何があった」
「……」
(不思議だな)
あんなに係長から根掘り葉掘り訊かれる事が厭だったのに、今は真戸さんとの事を訊いてもらいたかったし、真戸さんの事を訊きたいと思ってしまっていた。
真戸さんと付き合うことになった経緯、そして付き合い始めて起こったこと、嫌われてしまったかも知れないという一連の出来事を係長に話した。
私の話を訊いた係長はほんの少し気まずい素振りをしながらほんのり顔を赤らめていた。
「おまえ…マジか。今まで付き合ったことが無いって」
「…そこ、気になりますか」
「なる。なんでだ、おまえみたいな女、放っておかないだろう普通」
「え?」
「あっ、いや、なんでもない」
「?」
係長には私の恋愛嗜好のことは伏せて話した。単に今まで好きになった人には彼女がいて、付き合うどころか告白すら出来なかったと話を置き換えて話した。
「つまり、おまえは恋愛経験が無い中で初めて付き合った男が真戸だということなんだな」
「…はい。だからどうやって付き合ったら正解なのか解りません」
「恋愛に正解もなにもないだろう」
「でも…あの…男の人って……その、経験が無い女性って…困りますか?」
「は?何が。経験?」
「あの……つまり、その……セッ…セック──」
「っ! 解った!解ったから皆まで言うな!」
私が言いたかったことを理解した係長は益々顔を赤らめた。
(って、私、なんでこんなことまで係長に)
エリちゃんや美佳さんには言えない、訊けないことが、何故かこの状況で係長に訊けることがやっぱり不思議だなと思った。
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