第18話 キス

何とかシャワーを浴び終え、真戸さんが腰掛けているベッドに向かう。真戸さんはチラッと私を見た後、座っている自分の横をポンポンと叩いた。私は静々と真戸さんの横に座り少し俯きながら言葉を探していた。


(なんて切り出そう)


真戸さんに気持ちを訊こうと思った。私のことをどう思っているのか。ちゃんと真戸さんも私のことを好きなのかどうか──それを訊かなければ私は…


そう思った瞬間、不意に体が仰向けで倒された。


(えっ!)


次に意識がはっきりした時には私の上に跨る真戸さんの艶めいた表情が目の前にあった。


「……」

「真戸さ── っん!」


黙って私を見つめる真戸さんの名前を呼び終わる事無く、いきなり私の唇は塞がれた。


(キス?!)


突然のことに頭が真っ白になった。勿論私にとってキスも初めてのことで心の準備が出来ていない内にされた生まれて初めてのキスにただただ驚くばかりだった。


(嘘…!私、今…真戸さんとキス──)


繰り返される触れ合いにまともな思考が追い付いて行かない。ただ、繰り返されるその行為を徐々に冷静に受け入れてしまっている私がいた。


(キス…って…こんなに気持ちいいの…?)


柔らかな感触が触れ合い、その度に心が、体が跳ねているように感じた。


やがてうっとりと其の行為を受け入れていると突然薄く開いた咥内に熱の塊が差し込まれた。


(?!)


それが真戸さんの舌だと気が付いた時にはまた私は脳内パニックを起こしてしまった。


(嘘…舌が…真戸さんの舌が…)


その激しい行為に恐ろしさを感じた。何とか抵抗しようと真戸さんの体を押すけれど私のそれは全く効力を持たずに、益々濃厚なキスがし続けられた。


「ふ…んっ」


息継ぎの度に訊いたこともない甘ったるい声が漏れ出る。静かな室内には私たちが発する濡れた音が響いていた。


(やだ…なんか変な…感じが)


体の彼方此方あちらこちらがもどかしい熱を持ち始め、特に下半身の疼きが激しかった。もじもじと膝を擦り合わせると、それを見た真戸さんがキスをしながら私の身に着けているバスローブをはだけさせた。


「!」


露わになった胸に真戸さんの大きな掌が這った。その感触に思わず体が跳ねてしまった。


(嘘…嘘、嘘嘘嘘っ!)


余りにも恥ずかしい行為にとうとう私は力の限り真戸さんの体を押した。


「っ、何」


真戸さんの唇と掌が私から放れた。


「はぁはぁはぁ…ま、待って…ください」


私は浅く息を吐きながら真戸さんに声を掛けた。


「どうしたの」

「私…真戸さんに訊きたい事ことがあって…」

「今?」

「今、です」

「何」

「……」


真戸さんの無機質な声に先刻まで持っていられた勇気が粉々に砕けそうな気がした。


「訊きたいことって何」


真戸さんから促され私はなけなしの勇気をかき集め言葉にした。


「真戸さんは私のことを……好き、なんですか?」

「……」

「あの…勿論、お付き合いするってそういうことで…こういうこともちゃんと受け入れられると思っているんですけど…」

「……」

「でも私は…わた、しは……恥ずかしい話、真戸さんが初めてで…」

「──え」

「男の人と付き合うのも、キスするのも、そして…あの……こういうことも初めてで…でも、だからといってするのが厭という訳ではなく、真戸さんとなら…好きな人とならしたいっていう気持ちもちゃんとあって、でも、する前に真戸さんの気持ちも確認しておきたいと思っちゃって」

「……初めて?」

「え」


思わず早口でまくし立てて話す私の耳に、呟くように小さな真戸さんの声が届いた。


「初めてって……君、処女ってこと?」

「っ!」


ストレートに言われた言葉が恥ずかし過ぎて思わず次の言葉がグッと重く喉に引っかかった。


「初めてって…22なのに?キスも初めて?」

「……」

「──初めて、なんだ」

「~~~」


真戸さんが淡々と語るあらゆる言葉が鋭く私の胸を突き刺して行く。そして何故か私は真戸さんの言葉によって、22歳の女性としてはとてもおかしな、変な、らしくない存在のような気にさせられてしまったのだった。


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