第17話 戸惑い
お付き合いを始めてからどれだけ経てばそういうことをするのが正解なのか解らなかった。特に私は真戸さんが初めての彼氏で、お付き合いで……
(まさか付き合い始めて二日目でこういう展開になるのが常識なの?!)
「シャワーいいよ」
「っ!」
考え事をしていた私にシャワーを浴び終えた真戸さんが声を掛けた。
(バスローブ姿の真戸さんっ!)
私服以外の姿を見て不覚にも胸がときめいた。私にとっては何もかもが初めての世界で脳内では盛大なパニック状態を起こしていた。
「どうかした?」
「あ…あの…あの」
「……」
「ひとつだけ…訊いても、いいですか」
「うん」
「こういう流れは……普通、なんでしょうか」
「え?」
「あ、えっと……その…私と真戸さん…付き合い始めてからまだ二日しか経っていないじゃないですか」
「そうだね」
「それで…あの、こういうのって……は、早くないのかなって…」
「……」
「私は…そう思っちゃって……気持ち的にまだ早いんじゃないかなって」
「でも君、俺のことが好きなんでしょう?」
「…え」
「好きなら早くないんじゃないかな」
「……」
「好きだからしていい。それでいいんじゃない?」
「……」
「シャワー、どうぞ」
「………はい」
不思議だった。
つい先刻まであんなに近づけたと思っていた真戸さんが、何故か急にうんと遠くの、知らない人になったみたいだった。
だけど真戸さんに嫌われたくなくて、私は言われるままシャワーを浴びに一歩を踏み出した──。
温かな水飛沫が私の体を容赦なく叩く。
「……」
言われるがままシャワーを浴びている私は悶々と考えてしまっている。
『でも君、俺のことが好きなんでしょう?』
『好きなら早くないんじゃないかな』
『好きだからしていい。それでいいんじゃない?』
真戸さんからかけられたそれらの言葉は思いの外私の心を大きく抉った。
(それってなんだか…一方通行な感じがする)
色々考えて、そこで気が付く。
(そういえば…私)
真戸さんから『好き』と言われていない。付き合おうとは言われたけれど真戸さんの私に対する気持ちを訊いていなかったことに今更ながらに気が付いた。
(真戸さんは私のこと…好き、なのかな)
好きだから付き合う──それが当たり前だと思っていたから私は真戸さんから交際を申し込まれた時、真戸さんも私のことが好きなのだと勝手に思ってしまったけれど…
(もしかしたら真戸さんは)
男性によっては好きでもない女性とも付き合える人がいると訊く。真戸さんがそうだとは決して思わないけれど、それでも──
(……訊かなくっちゃ)
ちゃんと真戸さんの気持ちを訊いて本当にお互いが好き合っているなら、お互いそういう気持ちでいるのなら、私は真戸さんに全てを捧げられると思ったのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます