第14話 質問

「──で、あの後どうなった」

「……へ?」


突然問い掛けられ思わず変な声が出てしまった。


少し休憩しようと思い休憩室でカフェオレを飲んでいると係長がやって来た。『俺も休憩』と言いながら自販機で缶コーヒーを買い、私の座っている向かい側に腰を下ろした。


そんな状況での先程の言葉だった。


「真戸とはどういう関係だ。あの後何処かに行ったのか?何かされたんじゃないだろうな」

「あ…あの…係長?」


(なんかその質問攻めは係長らしくない…というか)


「なんだ、俺には訊く権利があるだろうが。飯食いに行くのを反故にされたんだぞ」

「…はぁ」


(係長、そんなにご飯を食べに行きたかったのかな)


まぁ、結果として私のミスで二時間も拘束された訳だからお腹が空いていて当然だろう。それなのに更に私事で振り回してしまったような形になって多分怒っているのだろうなと思った。


「さぁ、話せ」

「あの…ひとつ訊いてもいいですか」

「なんだ」

「係長と真戸さんってお知り合いなんですか?」

「……俺と真戸は同じ高校の同級生だった。真戸は高校卒業後此処に就職していたから大卒で入社した俺にとっては先輩ということになるが」

「同級生…そうだったんですか」

「だから余計に心配してんだよ。高校の時のあいつを知っているからもしかして──って」

「…係長?」


不意に言葉を止めた係長が少しだけ視線を外した。


「……まさかとは思うがおまえ、真戸と付き合っている…とかじゃないよな」

「っ!」


突然指摘されてドキッと心臓が跳ねた。それと同時に少しだけ辺りに剣呑な雰囲気が漂った。


「どうなんだ、付き合っているのか」

「あの…それはプライベートなことであって…業務中にするような話では──」

「今は休憩中だ」

「あの…わ、私の休憩は終わりました!」

「あ、おい、藤澤」


何故か係長の追及に不穏なものを感じた。『付き合っているのか』という質問に対してどうしても素直に答えることが出来ず、私は慌ててその場を後にした。


(なんだろう……なんだか厭な予感)


係長の真戸さんの過去を知っているような会話の流れに得体の知れない不安を感じた。


(訊いちゃダメな気がする)


係長が真戸さんの何を知っていて、そして私に対して何が言いたかったのか。


何も解らないけれど今はそれを訊く勇気が私にはなかった。



「はー終わった」

「終わったねぇ」


終業後、更衣室で私服に着替えながらエリちゃんは大きくため息を吐いた。


「ねぇ、郁美。今日の予定は?」

「あ…えっと…」

「あーごめん、野暮なことを訊いちゃった。当然真戸さんと逢うんだね」

「…うん、晩ご飯、食べないかって約束していて」

「だよねー、付き合っているんだもんねーわたしよりも優先しちゃうよねー」

「エリちゃん…」


そういえばエリちゃんには私の特異な恋愛嗜好や恋愛出来ない理由を訊いてもらう約束していた。


その約束が果たされる前に私は真戸さんと付き合うことになったのだけれど。


「ねぇ、前に郁美の話を訊くって約束していたの、覚えている?」

「うん」

「あれ、いつだっていいんだからね」

「…え」

「今はちゃんと付き合っている人がいるんだから彼氏優先でいいって言ってるの」

「エリちゃん」

「まぁ、その彼氏のことで相談なり悩みなり出て来たらそういう話だって訊いてあげるから話してよ」

「…うん、ありがとう、エリちゃん」


エリちゃんにはもう私の恋愛嗜好の話をしなくてもいいかと思えた。


指輪で好きになったりならなかったり……今まではそうだったかもしれないけれど、そういうのはたまたま重なっただけであって、本当は私もちゃんと他の人のものじゃない男性を好きになれるのだと知れて嬉しく思っている処が大きかった。


(大切にしよう…この初めての恋を)


そんな温かな想いを胸に灯し、更衣室でエリちゃんと別れ私は足早に真戸さんとの待ち合わせ場所に急いだのだった。



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