第13話 変わらない世界

22年間生きて来て初めて彼氏が出来た。


でも彼氏が出来たからといっていきなり私の世界が劇的に変わる訳でもなくて──


「えっ、真戸さんと付き合うことになったの?!」

「うん…」

「えぇーおめでとう!郁美ぃー!」

「あ、ありがとう…美佳さん」


真戸さんとお付き合いを始めることになった翌日、始業時間前の更衣室で私はエリちゃんと美佳さんにその旨を報告をした。


「なんだかいきなりの展開だね、驚いたよ」

「それは私も……夢じゃないかって何度も頬を抓ってみたんだけど痛かった」

「え、頬っぺのこの少し赤くなっているのって抓った痕?!どんだけ抓ったの」

「だって本当に信じられなくて…」

「まぁ、なんにせよよかったね。初めての彼氏でしょう?しかも歳上。色々教えてもらいなさいよ~」

「教えてもらう…?」

「ちょっと、美佳。あまり郁美をからかわないの」

「えぇーからかっていないよ。真面目に言ってんの」


(真戸さんから教えてもらうことって……事務と営業じゃ仕事内容が違っているからなぁ)


美佳さんに言われた言葉を受けしばらく考え込んでしまう。


「…ちょっと、エリ子。この子なんか真面目に考え込んでいるけど」

「多分…美佳の言った言葉の真意が伝わっていないと見受ける」

「まさか!いくら交際経験がないっていったって付き合ったら何するかってことぐらいは解っているよね?」

「解っていると思いたいけれどね」


とりあえず私はふたりからのアドバイスを受けながら、初めてのお付き合いを頑張ろうと思った。


だけどいつものフロア。いつもの業務。


彼氏が出来たからといって明確に何かが変わることもなくて、ただ私の心の中だけに今までにはなかった感情が加わっただけだった。


(彼氏が出来たからといって仕事は疎かに出来ないからね)


私はいつもよりも仕事に対しての意欲が高まっていることを何となく感じていた。



「藤澤」

「はい」


内野宮係長に呼ばれデスクに向かった。


「昨日の新規顧客リストの訂正版、完璧だった。ありがとうな」

「いえ、改めてミスをしてしまってすみませんでした」

「だからそれはいいって。──それでこれは別件なんだが、五年前までレンタル契約していて今は解約されている且つての利用者のリストアップを頼めるか」

「五年前、ですか?レンタルされていた商品別で限定しますか?」

「いや、商品別じゃなくていい。種類問わず一度でも契約実績のある利用者の名簿を作成してくれ。それを元にDMを作成するから」

「提出期限はいつまでですか?」

「早ければ早い方がいい。明日いっぱいまでは猶予がある」

「解りました。早速取り掛かります」

「頼む」


係長とのやり取りもいつも通りで、そんな状況に少しホッとした。


(昨日の真戸さんとのやり取り…やっぱり係長と真戸さんって知り合いなのかな)


同じような年齢ということで部署は違えど知っている仲なのだろうなとは思うけれど、詳しいことは解らない私だった。



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