第12話 告白

運ばれて来た焼き魚定食を食べながらポツポツと会話が零れた。


「私が真戸さんのことを気にしたというのは……本当です」

「……」

「でもそれは最初の…見た目の印象でそう思っただけで……あの飲み会で真戸さんとはまともに話さなかったからどういった人か解らない状況で……好き、とまでは言えなくて」

「…やはり周りの早とちりか」

「いえ、でもお話はしたいと、もっと真戸さんのことが知れたらいいなとは思っています」

「……」

「だから本当はあの日、メッセージをもらえて嬉しかったんです。だけど……でも…なんだかメッセージから受ける印象と私が感じた真戸さんのイメージが違ってしまって…」

「それであの素っ気なさか」

「…すみません」


ホロッと身が解れる魚を口に運びながら静々と進む会話。しかしそこで一旦会話は途切れ、そこからはお互い最後まで黙々と食事を摂り続けた。


食後のお茶を啜りながら私は言葉を探していた。探した言葉を口にする前に真戸さんが口を開いた。


「二時間待った甲斐があった」

「…え」

「今日、どうしてもあのメッセージの意味が訊きたくて君が会社から出て来るのを待っていた」

「!」

「どれだけ待っても会社から出てこないからもう帰ったんじゃないかと思いながらもどうしても帰ることが出来なかった」

「…あの…連絡してくれれば…」

「機械越しのやり取りは苦手なんだ。相手の真意が見えなくて」

「っ」


私と似た感性を持った真戸さんの言葉が深く私の心に突き刺さった。


「どうしてこんな風に思うのか不思議だった。俺は……特別な相手が欲しいと思ったことがなかったから」

「え…」

「作らないと決めていた。作っては駄目だと──そう、思っていたのに」

「…真戸、さん?」


(それってどういう意味?)


と訊きたかったけれど、それを許さない雰囲気が真戸さんから感じられた。


戸惑いながらも真戸さんから紡がれる言葉を耳にしていると


「友だちから」

「え?」

「──始めようかと思ったのだが…五歳上のおっさんと友だちとして付き合うというのは今時の若い子からみたらどうなんだろうか」

「友だち…ですか」

「うん」

「……普通のお付き合いじゃ…ダメ、なんですか」

「え」

「……あっ! いえ、あのっ」


突然私は何を言っているのだと顔が熱くなった。


(いきなり大胆になり過ぎだよ、私!)


「普通の付き合いって──彼氏彼女って関係?」

「あの…そ、それは…」

「まだお互い何も知っていないのに?」

「それは……そう…なんですけど…」

「君は臆病なのか大胆なのか解らないな」

「っ、すみません!失言で──」

「でも……面白いな」

「………へ」

「本来恋愛とはそういったものだったか。長くしていないと忘れてしまうものだな」

「……」

「知らないから付き合って知って行く。それが正攻法だったか」

「……あの」

「──藤澤さん、俺と付き合ってくれますか」

「っ?!」


まさか──?と思った。


嘘か真か解らないまま話はとんとん拍子に進んで行き、気が付いた時には私は真戸さんとお付き合いをすることになっていた。



絶対に出来ないと…


私には一生出来るはずがないと思っていた彼氏がたった今、出来てしまったようです。



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