第11話 本当のあなた

暗い夜道で突然真戸さんとふたりきりになってしまった。


(うぅ~~ど、どうしよう)


急に起こった出来事にまだ頭が巧く反応出来ていなかった。


「…飯って」

「──え」

「内野宮とご飯食べに行く処だったの?」

「あ…あの…」


私は此処までに至った経緯を真戸さんにたどたどしく説明した。


「…ふぅん、そう。じゃあ食べに行こうか」

「え」

「お腹、空いているんでしょう?──というか俺も待ち続けて腹、減ってる」

「………あ」


(そういえば真戸さん、なんで此処に?!)


肝心なことを忘れていてそれをそのまま真戸さんに問い質すと「とりあえず何処か店に入ろう。其処で話すから」そう言って夜道を歩き出した。



真戸さんと入ったお店は少し古ぼけた定食屋さんだった。


「いらっしゃい、何にしますか」

「俺は焼き魚定食」

「其方は?」

「あ…えっと…同じものを」

「はいよ、焼き魚ふたつー」


何を頼めばいいのか解らず、咄嗟に真戸さんと同じものを注文した。初めてのお店にキョロキョロ見渡していると


「ごめん、こんな店で」

「え?」

「君みたいな若い子ってもっと洒落た店の方がよかったんじゃないの」

「あ…他の人はどうか解りませんけど私は好きです。というか、こういう家庭的なお店の方が安心するというか…気を使わなくていいというか」

「……」

「定食屋さんっていいですよね。和食、好きなんです」


其処まで言ってハッとした。


(わ、私…何をベラベラと)


思わず饒舌に語ってしまった私を真戸さんはただジッと見つめるばかりで注文した品が来るまで少し気まずい時間が流れた。


(どうしよう…私から言った方がいいのかな)


黙ってしまった真戸さんを横目で見ながら話をどうやって切り出そうか迷っていると


「君、俺のこと、好きなんでしょう?」

「………は」


突然、唐突に吐き出された言葉に一瞬頭の中が思考停止になった。


「君の友だちから三好さんに話が行って、三好さんからしつこく連絡しろって言われたからしたんだけど、君からのひと言で俺は訳が解らなくなった」

「……」

「好意を持たれていると思ったから頑張って連絡した結果があれで俺は訳が解らなくなった」

「……」

「どういう状況でああいう返信をしたのか、その訳を訊かせてくれないだろうか」

「………」


………ちょ


(ちょっと待ってぇぇぇぇぇ──!)


なんだか急に真戸さんが喋り出した。そのことにも驚いたけれど、それよりも何よりも!


「あのっ」

「何」

「私の友だちって…誰のことですか?」

「誰…?名前は知らない。俺は三好さんから俺のことを気に入った子がいるからちゃんと繋ぎとめておけと言われただけで」

「……」


(三好さんにそんなことを言うのって……ひょっとして美佳さん?!)


その可能性が限りなく高いと何故か確信してしまった私。


真戸さんからの先制攻撃に呆気に取られてしまったと同時に、本当の真戸さんはやっぱりあのメッセージから受けた印象とは違うのだと確信した。


(三好さんに言われてあんな意に沿わないメッセージをしたってことか)


今、目の前で話している真戸さんは私が初見で感じたイメージそのものの印象を与え続けている。


「俺は別に自ら進んで君にどうこうしたいとは思っていない。申し訳ないがたかだか二時間程度の時間を共有しただけで好きか嫌いかを見極める程そういったことに長けている訳じゃないから」

「……」

「そもそもあの飲み会だって参加しなければ三好さんが承知しないと脅すから厭々──というのは語弊があるが…決して浮かれて行った訳ではない」

「…だからつまらなそうにしていたんですね」

「……」


真戸さんから語られるあの日の情景が私の中の真戸さんという人の輪郭を確かにして行く。


そして真戸さんから放たれる言葉を訊けば訊くほどに私の心にふわふわしたものが降り積もって行く。


(あぁ…やっぱり最初に感じたイメージそのものだ)


機械を通して感じたイメージに振り回されるなんてなんと愚かなことか。やっぱりちゃんと話してみないと解らないことが多いのだと改めて感じた。


結果的にはこういう状況になった発端を作ってくれた美佳さんや、私にもう一度真戸さんに向かい合うアドバイスをしてくれたエリちゃんに心の中でそっと感謝した。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る