第10話 待ち伏せ
会社から出て数歩行った処で急に係長が立ち止まった。
「っ!」
直ぐ後ろを歩いていた私は思わず係長にぶつかってしまい軽く鼻を打ってしまった。少し痛む鼻を抑えながら「係長?」と声をかけると係長の体越しに人影が見えた。
「…え」
その人影は私を驚かすには充分の人だった。
(嘘…!なんで)
「おまえ…真戸か?」
係長が人影に向かって発した言葉。そう、其処には真戸さんがいたのだ。
「…内野宮?」
真戸さんも内野宮さんの言葉を受けて言葉を発する。
「なんだよ、こんな処で何やってんだ」
「人を待っていた」
「人?」
そう言って真戸さんが私に向かって視線を投げかけた。
(え…っ、私?!)
同じく気が付いた係長は私と真戸さんを交互に見て「藤澤、おまえ真戸と知り合いなのか」と訊いた。
「あの…知り合いというか……その」
何と答えればいいのか迷っていると
「藤澤さん、話があるんだけど」
「!」
真戸さんの言葉に不意に体が撓った。
(話……話って)
偶然逢えたらいいなと思っていた。あの日出してしまった失礼なメッセージを謝りたいと思っていた。
思っていた──のに
(余りにも急すぎて頭がまともに働かないっ!)
なんて脳内パニックを起こしてワタワタしている私を見て係長は真戸さんに向かって告げた。
「話って何だよ」
「なんで内野宮がそんなことを訊く」
「なんかこいつ、今冷静じゃないみたいなんで。上司判断で代わりに俺が訊く」
「意味が解らない。上司判断って何。俺は藤澤さんに話があると言っている」
「その本人がしたくない素振りをしているだろうが」
(えっ!)
係長の言葉に思わず体が反応してしまった。
「藤澤?」
「あの…したくないなんて思っていません」
「え」
係長の袖口を引っ張りもたつく思考と言葉で懸命に言葉を紡ぐ。
「ちょっとビックリしちゃって…挙動不審な態度が出てしまいましたが厭とかしたくないとか…そういうことではなくて」
「…真戸と話したいのか」
「あ……はい」
少し声のトーンが落ちてしまったけれど其処だけはハッキリと伝えた。
「じゃあ飯は?」
「…すみません」
「──ふぅ、仕方がない。次は俺を優先しろ」
「…え」
(次?)
係長の言葉が引っかかった。ご飯を食べに行くのは今の、この時の流れだけで発生したことではないのか?
わざわざ次に繋がることではないと思ったのだけれど…。
「俺は詫びるといったら詫びる。貸したまんまは嫌いなんだ」
「…はぁ」
ミスの半分のことを言っているのかなと思いながらもやっぱりいまいち腑に落ちてはいなかった。
「という訳でこの場は俺が引く。──真戸」
「なんだ」
「藤澤は俺の部下だ──其処、忘れるな」
「……」
そう言い残して係長は軽く手を上げ去って行った。
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