第7話 踏み出す勇気

一歩を踏み出す勇気──濃い、恋、来い



「え、断った?!」

「ちょ…エリちゃん、声が大きい」


週明けの月曜日。出勤した私にエリちゃんは手招きをして呼び寄せ早速真戸さんとのことを訊きたがった。


だから真戸さんからメッセージを貰い、それに対して応えることはしなかったと簡潔に告げた。


「どうして?郁美、真戸さんのこと気になっていたって」

「気にはなったけど……でもちょっと…違っていて」

「違っていてって、何が」

「…イメージが」

「イメージって、何の」

「…最初に感じた気持ちとメッセージを受けた印象が…違っていて」

「そういう違いって多少あるんじゃない?単に面と向かって話すのは苦手だけどメールやLINEでは気軽に話せるタイプっ人、いるじゃない」

「そういう感じじゃなくて…」

「そういう感じじゃないって…郁美が何を言いたいのか解らない」

「うん…解らないよね、私も解っていない」

「…郁美」

「なんか…ちゃんと解っていないみたい、私…」

「……」


私が感じている気持ちをどうやってエリちゃんに伝えればいいのか解らない。


気持ちを言葉にするのって難しいなと思った。


エリちゃんは純粋に私と真戸さんのことを応援してくれようとしているだけだと思う。だから色々訊いてアドバイスしたり意見を言ってくれているのだろう。


「折角合コン誘ってくれたのにごめんね」

「そんなのはいいけど……ねぇ、もうちょっと頑張ってみたら?」

「頑張る?」

「なんか郁美って恋愛に関してネガティブな感じがする」

「…!」

「そんなに可愛いのに22年間彼氏無しっていうのも不思議だし、その理由っていうのも気軽に話せることじゃないのかも知れないけどさ、でも折角いいなと思った相手がいたんでしょう?メッセージのひとつやふたつで諦めて止めるなんて勿体ないよ」

「…勿体ない…かぁ」

「そうだよ、勿体ない。だってまだ全然始まってもいないんだよ?真戸さんとまともに話してもいないでしょう?それで真戸さんの何が解るっていうの?」

「……」


不意にエリちゃんの言っていることが腑に落ちた気がした。


(確かに…私、真戸さんとまともに話していない)


「真戸さんと話してみてさ、それでも郁美が感じたその…イメージっていうの?違っていたならその時こそ止めたらいいんじゃない?」

「え、でも…そういうのって狡くないかな」

「狡いって何?恋愛ってそういうことから始まるものでしょう?」

「…! そうなの?」

「……郁美…あなたって本当何が原因で今まで恋愛出来なかったの?わたし、心配になる」

「~~~」


今まで結婚指輪からの妄想と其処から連なるイメージだけの、脳内恋愛しかしてこなかった私にとって実践的な恋愛はただの脅威でしかなかった。


別に恋愛したくない訳じゃなかった。する機会が無かった──というか、恋愛出来る人を好きにはならなかったというだけの話。


私が好きになる人はみんな他の人のものだったから。だから恋愛が出来なかっただけ。


(私だって好きな人と恋愛したいよ)


好きになった人が私を好きになってくれて、愛し愛される恋愛をずっとずっとしたいと思っていた。


「…出来る…かな」

「え?」

「私……頑張ること…出来るかな」

「出来る出来ないは行動を起こしてから考えなさい!」

「っ!」


エリちゃんにトンッと背中を叩かれ何か吹っ切れたような気がした。


(…そうだ、私……変わらなくっちゃ)


折角指輪のない人のことを気になって、誘われたのに断ったことを気に病んでウジウジ考えてしまっているくらいなら、私は今までの私を捨ててここらで変わってみたらいいんじゃないかと思えた。


そう思えたら途端に真戸さんに素っ気ないメッセージを出したことを謝りたかった。例えもう手遅れだったとしてもその件に関してだけはお詫びして、そしてもし許されるのなら面と向かって話が出来ればいいなと思ったのだった。


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