第6話 コンタクト
初めての合コンで初めて指輪をしていない人のことが気になった。
エリちゃんや美佳さんが色々アドバイスをくれて、それを訊いている内に私は真戸さんのことをもっと知りたい、もっと話したいと思うようになっていた。
──とはいえ
「いやいや、私からどうやって連絡すればいいの?!」
ひとり暮らしをしているアパートに帰って来た私はひとり悶々としていた。
『今日の内に連絡しておいた方がいいよ』
なんて美佳さんから言われたけれどなんと書けばいいのか解らずまた入力画面を消した。
「はぁ…」
ベッドの上に携帯を投げ置き、仰向けで大きなため息をついた。
「……真戸…光輔さん…かぁ」
思えば私は真戸さんのことを何も知らない。名前と年齢、仕事だけは知っているけれど、それ以外のことを何も知らない。
寧ろ三好さんや五十嵐さんのことの方が沢山知ってしまっている。好きな食べ物や誕生日、何処出身で家族構成はどうとか……それらはみんな、合コンで会話があったから得た情報だ。
だけど真戸さんに関してはそういう情報が一切ない。
(会話…していなかったからなぁ)
そんな人に対していきなり個人的に連絡をしたら相手はどう思うのだろう。
(恋愛レベルゼロに等しい私にはいきなりハードル高過ぎ)
また大きなため息がひとつ口から出た瞬間、ピコン♪と携帯が鳴った。
「え」
突然の着信に思いの外ドキッとしてしまった。慌てて携帯を手に取り画面に表示されたメッセージを見た瞬間フリーズしてしまった。
【真戸です】
「ま、真戸さん?!」
まさかの人からのメッセージにあり得ない程の激しい動悸が私を襲った。たった四文字で私の心臓は破壊されそうだった。
ピコン♪
「!!」
続けてメッセージが送られて来る。
【今日は楽しかったです】
「……え」
そのメッセージに興奮気味だった私は少し冷静になった気がした。そしてまた送られて来るメッセージ。
【今日はあまり話せませんでしたがもっと話したいと思いました】
【時間があれば食事がてら会ってお話しませんか】
【都合がいい日時があれば教えてください】
「……何、これ」
次々に送られて来たメッセージに私は違和感を覚えた。
(なんだか…イメージと違う)
私の中で大きく育ちつつある真戸さんという人のイメージとはそぐわない文面に戸惑った。
「これ、本当に真戸さんから…なのかな」
そんな疑いまで出てくる始末。勿論間違いなく真戸さんから発信されているメッセージだった訳だけれど、どうにも不思議な感じがして仕方がない。
散々悩んだ末、結局私は真戸さんからのメッセージに応えることが出来なかった。
たったひと言。【都合のいい日がないのですみません】なんて素っ気ないメッセージを送ってしまった。
それ以来、真戸さんからメッセージが来ることはなかった。既読がついていたから読んだことは解ったけれど私が送ったメッセージについての返信はとうとうされなかった。
(…何、やっているんだろう……私)
もしかしたらまともな恋愛が始まったかも知れなかったのに。
初めて彼氏が出来て、ごく普通の女性が経験するような大人のつき合いも出来たのかも知れないのに。
そういうことを、たかが──なんだかイメージと違う、なんて理由で断ち切ってしまった自分が情けなく思えた。
(折角好きかも…好きになれるかも…と思ったのに)
恋愛初心者の私の元に舞い込んで来たなけなしのチャンスを自ら潰してしまうなんて私はとんだ愚か者だ。
(あぁー自己嫌悪感、半端ないっ!)
後から後悔しても仕方がないとは思うけれど、でもどうしたってあの時の私はあの真戸さんからのメッセージを喜んで受け入れることが出来なかった。
最初に感じたあの、なんとも表現し難い気持ちを抱いたあの真戸さんが気になった。
あの真戸さんを好きになった。
好きだけど……ちょっとしたイメージの違いで何故かその気持ちを抱き続けることが出来ず、諦める方向を選んでしまった私だった。
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