第5話 気になる人
「ではでは、僭越ながらこの
男性メンバーのリーダーらしい三好さんが自己紹介をすると五十嵐さん、真戸さん共に軽く会釈した。
「では女性メンバーはわたし、島田から紹介します。わたしは島田エリ子。わたしの隣に座っている彼女は花井美佳、そして奥の彼女は藤澤郁美です。全員今年入社の同期で、わたしと藤澤は事務所属で花井は営業三課所属です」
「みんな22歳ってこと?若いねぇーごめんね、おれらおっさんで」
エリちゃんの紹介を受けて三好さんはお茶らけた口調で笑った。
「おっさんだなんて、皆さんエリートじゃないですか。営業一課なのに本当に彼女、いないんですかぁ?」
「いたら合コンしないから!そういうところは真面目だよ、おれら」
美佳さんの言葉に応えるのはやっぱり三好さんだった。
(…なんか…ちょっと気まずい)
エリちゃん、美佳さん、三好さんが中心になって会話が弾み、それを五十嵐さんと私はうんうんと頷く感じで訊きながら会話に参加している。
だけど私が気になっている真戸さんはというと──
「…ふぁ」
会話に入らないばかりか、窓際の席から頬杖を付きながら外を見て大欠伸をしているばかりだった。
(つまらなそうだな……)
今まで結婚指輪をはめていない人を気になったことはなかった。
『あ、かっこいいな』
『好きなタイプかも』
なんて軽い気持ちで気になった人はいたけれど、その指に結婚指輪がはめられていないと知ると途端に気持ちは萎んでしまい、あっという間に興味の対象ではなくなってしまっていた。
そんな普遍的な感情の持ち主である私はきっとこの先、本当に好きな人と素敵な恋愛をして結婚して幸せになることなんてないと思っていた。
好きな人に愛されて、好きな人を愛せる──そんな単純かつ奇跡のような恋愛を私は一生知ることがないと……そう思っていたのに。
「え、真戸さんが気になる?」
「……う、うん」
「えーマジで?郁美って案外地味男がタイプなんだ」
「地味って…」
約二時間ほどの合コンは終了し、帰り際合コンメンバーでLINEのグループを作成した。また飲みに行こうと約束をして男性メンバー、女性メンバー其々別れて帰路に着いた。
私たちは途中ファミレスに寄って合コンの感想などを話していたのだけれど……。
「真戸さんって殆ど会話に参加していなかったよね?」
「ずっと日本酒飲んでいた」
「話振っても『はぁ』『ですね』『了解です』の三パターンで返していたね」
「始終つまんなそうにしていた」
エリちゃんと美佳さんが交互に真戸さんの印象について語っている。そのどれもがその通りのことで私は苦笑いするしかなかった。
「なのに真戸さんがいいの?」
「…いいっていうか…気になって…」
「まぁ、確かに顔は普通にいいよね。歳よりも若く見えるし」
「いやぁ~顔なんて皮一枚のことでしょう?やっぱり性格が明るくて面白くなくっちゃ一緒にいて愉しくないよ」
「あれ、美佳のその口振り…もしかして三好さん気に入っちゃった?」
「解る?正解!わたし三好さん好きかも!」
「確かにリーダーっぽくって頼れる感じだよね。美佳の好みのタイプに近いかも」
「そうそう、それになんか出世しそうじゃない?性格明るくて優しくて仕事も出来るなんて最高じゃない」
「そっか…じゃあ今回は見事三人ともバラけてよかったわ」
「え…それって…じゃあエリちゃんは」
「わたしは五十嵐さん、気になったんだよね。大人しい感じだけど趣味が合うっていうか。五十嵐さんも歴史好きだって話が弾んでしまったの」
「あぁ、エリ子と五十嵐さん、やけに話しているなって思っていたらそういうことかぁ。じゃあ三人とも相手が出来たってことでこの合コン成功じゃない!」
「相手が出来たって…あの、私は別に」
「郁美、頑張れ!わたしも三好さん、ゲットするから!」
「ゲットって…そんな急には」
「郁美、何のために連絡交換し合ったの?真戸さんの場合、受け身じゃダメだと思うよ」
「……」
「確かに。あの人、絶対自分から連絡とかしてこないよね。そもそも合コンの間中つまらなそうにしていたし」
「……」
「郁美が積極的に行けば案外ああいうの簡単に落ちそう」
「地味で暗いから今まで彼女出来なかったってタイプっぽいもんね。郁美みたいな若くて可愛い子がグイグイ行けば絶対付き合うって」
「……」
(そんなに単純なものかなぁ)
ふたりの盛り上がりについていけないなと私はそっとため息をついた。
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