第4話 合コン

エリちゃんから誘われた合コンは三日後の金曜日、終業後に行われた。


「相手はクリーンスタッフの三好さんと五十嵐さんと真戸さんの三人です」

「えっ、エリ子、クリーンスタッフに知り合いいたの?!」

「研修担当だった石川さん経由だよ。彼女募集中の人を見繕ってくれたの」

「凄い!俄然ヤル気が出たー!」

「でしょう?」


合コンの女性メンバーは私とエリちゃんと、そしてもうひとりはエリちゃんと仲のいい花井美佳はないみかという営業三課に配属された女性だった。


ちなみに噂によるとうちの会社ではクリーンスタッフという業務に就いている営業一課は花形部署として注目されていた。


(確かお給料が他よりも断然いいんだって訊いたことがあったっけ)


そんな営業一課の人が合コン相手だと知った花井さんはテンション高めになった。だけど私は見かけが華やかでスタイルのいい花井さんに少しだけ居心地の悪さを感じていた。


「藤澤さん?初めまして。エリ子から色々訊いています。よかったらわたしとも仲良くしてね」

「あ…はい、此方こそ」


(色々訊いてって…エリちゃん何を話したのよ)


「硬いなぁー、ねぇ、わたしも郁美って呼んでいい?わたしのことも美佳でいいから」

「え…あ、私は…美佳さん、でいいですか?」

「なんでさん付け?同い歳なのに」

「……なんとなく…?」

「まぁまぁ、郁美ってこういう子だから。呼び捨てでもさん付けでもいいじゃない」


エリちゃんが巧く援護射撃をしてくれたおかげで「それもそうだね。よろしくね、郁美」と美佳さんは気さくな笑顔で応えてくれた。


(…意外と美佳さんっていい人…かも)


この時、狭い世界で生きて来た私の世界が少しずつ広がって行きそうな予感が少しだけしたのだった。



合コン会場となったのは会社近くの居酒屋だった。


(此処って新入社員歓迎会で来た処だ)


賑わう店内に入ると入社してから一ヶ月後に行われた歓迎会のことを少しだけ彷彿とさせた。


「あ、島田さん、こっちこっち」


エリちゃんを呼んだ人は奥の座敷席に座っていた。


「すみません、遅くなりました」

「いや、おれたちの方が早く来過ぎて…ごめん、もう駆けつけ一杯してしまった」

「いいですよ~わたしたちも早速注文しちゃいますから」


エリちゃんと美佳さんはこういう場に慣れているのか積極的にぐいぐい話し掛けて先へ進んで行った。


「郁美はこっち」

「あ…うん」


エリちゃんに手招きされて奥の席に座った。目の前に座っている男性は俯いてスマホを触っているせいでロクに顔が見えない。


(なんか…こういうの厭だな)


いくら暇だからといってこういう雰囲気の飲み会でスマホを弄っている人には好感が持てない。


「ほら、真戸もスマホ止めて。女の子揃ったから始めるよ」

「──あ」


『まと』と呼ばれた男性は隣に座っている男性の呼び掛けでようやくスマホから顔を上げ、そして目の前に座る私と目を合わせた。


(…っ!)


その男性の顔を見た瞬間、私は不覚にもドキッと胸が高鳴った。


(嘘…めちゃくちゃ好みのタイプ!)


私の好みがそのまま現実世界に現れたかのような男性の存在に、今まで感じたことが無いほどのときめきを感じてしまった。


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